未だ進めぬ一歩
初音視点です
駿弥くんの言葉に、私は思わぬことを言われたと感じて少しぼーっとしてしまった。
わがまま……遠慮、なんてしてるかな、私。貴斗さんは十分すぎるくらいに私を甘やかしてくれてて、私もそれに甘えてる。私はけっこうわがまま言ってるし、遠慮もしないで貴斗さんに甘えてると思うんだけど。
「うーん……これ以上わがままにはなれないよ。」
「そう?……俺が漫画とか小説とかの読みすぎなのかな……。なんかさ、高校生の男女交際のイメージなんだけど、毎日連絡取ったり、休日とか放課後とかにデートしたりっていうが普通かなって思ってたんだよね。でも、貴斗と宇咲さんはそんな感じないから。」
駿弥くんの不思議そうな表情に、私は確かに、と思い返した。
貴斗さんと小学生以来に再会してもうすぐ1年。一緒に2人で出かけたのは両手で足りるくらいだし、連絡だって貴斗さんの家に住むようになってからはいつでも一緒にいるから、取る必要もなかった。言われてみれば、駿弥くんの言う”高校生カップルのイメージ”らしいことってあんまりしてないかも。
……実は、恋人らしいことをあんまりできてないことは少し気にしてる。私は貴斗さんとデートもあんまりしてない。手を繋いだりハグしたりもあんまりだし、キスなんて1回もない。
この前会長が戻ってきた日、舞菜ちゃんは会長とキスをしたらしい。恥ずかしそうに、でも嬉しそうに話してきた舞菜ちゃんに、私は少しどきりとした。舞菜ちゃんたちは、もう私よりも一歩進んだところにいるんだ。
「確かに、私と貴斗さんって、あんまり恋人っぽくないかも。」
「……あー……。まぁ、こういうのはほら。それぞれのペースで、ってよく言うから。焦らなくてもいいと思う。貴斗にも考えがあるんだろうし。」
「そう、だよね。ありがとう、駿弥くん。」
私を励ますように駿弥くんが微笑んだ。その言葉に、少し気持ちも上向いてくる。私も笑みを見せて頷いた。




