景介の持ってきた話
貴斗視点です
久しぶりに初音と顔を合わせた今日。また一歩計画が進んだことに、俺は上向く気分を隠さず帰宅した。初音と別れた直後にも、抑えきれない興奮が顔に出ていたことだろう。
「ただいまー。」
「おかえりなさいませ、若。」
「景介。久しぶりだね、それ。」
玄関をくぐるなりすぐ出迎える景介に、笑いながら鞄を預ける。
今日は定例会から2週間。景介の休暇が終わる日だ。よほど嬉しいのか、満面の笑みで俺の帰りを玄関で待っていたらしい。
「えぇ。2週間、この時を待ち侘びていました。しかし、なればこそ、この幾度もない艱難辛苦を乗り越えた今、若のために動くことのできる喜びを噛み締めております。」
「……2週間前と少しも変わってなくてよかったよ。まったく、大袈裟なんだから。お疲れさま。すぐ俺の部屋に来て。軽い打ち合わせをしようか。」
「はい。私も、お話ししたいことがございます。」
俺の部屋に移動し、さっそく話を進める。3日目に初音と会う約束をしたこと、その時に計画を実行するつもりであること。それを聞いた景介は、二つ返事で調整を請け負ってくれた。
「3日目に生徒会室を終日人払いしておきます。若のご都合のいいようにご利用くだされば結構です。すべての采配は、私が執りましょう。」
「学校関係は景介がやれば面倒も少ないしね。頼んだよ。で、景介の話って?」
計画についての話は終え、さっそく景介の話を聞く。
景介が俺に何か新しい話を持ってくるのは稀だ。常に俺のサポートに徹している景介は、補佐にしておくには惜しいほど有能。例え新たな問題を見つけても、大抵景介が解決してしまう。その景介が上げてくる話だ。興味は引かれる。一聴に値するし、手を出してもいい。
「はい。こちらのことではございません。学校の方で龍司さんから、面白い人物の情報を得ましたので。」
「へぇ、りゅーちゃんが景介にねぇ。どんな人?」
「我が校に、転入生が来るようです。」
「転入生?うちに?……ずいぶん酔狂な親もいるんだねー。」
「いえ……それが、愛知で有数の頭脳の持ち主だそうで。」
景介の言葉に納得する。言われてみれば、旗下高校は進学校だ。都内有数の。偏差値でいったら、旗下高校か、南京高校かだろう。それに、旗下高校は俺と景介のおかげで学内試験の平均やら模試の点数やらが軒並み上がっている。伸び率の高い高校だ。確かに、狙い目と言えばそうなのだろう。
景介が気にするほどの能力を持つ転入生。面白そうだ。
「で、どうしてそいつを?」
「……うちの転入試験を満点通過。身体能力も悪くないそうです。龍司さんのクラスに入る予定と。」
「……すっごいねー。ははっ、景介みたい。」
「何を仰いますか。若の足元にも及びません。この男も、大したものではないでしょう。」
そこで、少し景介の言葉に引っ掛かった。男、が、りゅーちゃんの。初音のクラスに来るのか。……ふむ。
「……あ、申し訳ございません。私としたことが。そいつの素性を話すのを失念しておりました。……藍峰駿弥。16歳。愛知は名古屋から転入してくるようです。詳細につきましては、まだ調査を開始しておりませんので、今後提出するということで、ご容赦願います。」
「そ。まぁ、別段気にするもんでもないか。今の時点では情報はいつでもいいよ。」
頭を下げる景介に、ヒラヒラと手を振り他の仕事を優先するように伝える。たとえとんでもない秀才が現れようと、俺より初音に物理的に近いところに居座ろうとも、俺がすでに初音には唾をつけている。手は出させないし、まさか俺より初音を好きになって、その心をも手に入れるなんてそうないだろう。今神経質になる事柄ではない。初音を俺の手の内に入れるのに支障がないならそれでいい。
「まぁ、面白そうだし、何かあったら俺も接触してみようかな。とりあえずそれはいいや。さ、景介。本領発揮の時間だよ。夕飯の後取り調べ。思ったより難行してるみたいでさぁ。時間足んなくなっちゃって。」
「おや。比較的こういうことに適正のありそうな人を選んだつもりでしたが。承知しました。……明日までに、終了の目処をつけましょう。」
「あはっ、頼もしーい。よろしくねー。」
楽しそうに笑みを見せる景介に、俺も笑って返事を返す。
何だかんだ言って、やはり俺の一番の理解者は景介なのだ。俺のやりやすいように動いてくれる景介が隣にいないこの2週間は、仕事も滞っていたし、やりにくさも感じていた。いるだけで大丈夫だと思える存在だ。
……なんて、そんなこと伝えたら、きっと景介は泣いちゃうから、心の中に留めておくけれど。