先輩からのお誘い
初音視点です
キョトンとした私に、先輩はにこにこと笑い、頷いた。
「うん、俺が。難易度が三段階に分かれててね、最高難度は今のところ誰も解けてない。」
「……それ、絶対誰も解けませんよ。」
「ふふっ。まぁ、そーかも。最高学府の首席ならいけるよ、きっと。でね、初音には楽しんでほしいし、ちょーっとサービスしてもいいよ。」
「サービス、ですか。……ふふっ。なんだか、特別待遇をしてもらえるみたいですね。じゃあ、頼んでいいですか?」
最高難度、は解ける気がしないけど、先輩が案内してくれるなら、私でも楽しく解けるかもしれない。それに、誘いを断るのも悪いかも。私は先輩の申し出に笑顔で頷いた。
「あ、やった。嬉しいよ。3日目、空いてる?1日目も2日目も予定があって。」
「はい、大丈夫ですよ。3日目なら、全日フリーです。」
「そっか。じゃあ3日目の午後でいいかな?きっと楽しんでもらえるって、約束するよ。」
嬉しそうに笑みを浮かべる先輩に、私もワクワクしてきた。
その後の道中も、他愛ないことを話しながら歩いた。教室に近づくにつれ大きくなるざわめきをバックに、私は先輩のユーモラスな話に夢中になっていた。先輩の頭の中には、面白い話がいっぱい詰まっているようだ。そして、私の話もよく聞いてくれる。絶妙な相槌と表情に、私はスルスルと色々なことを話していた。
「で、そのとき友達が……」
「あ、初音……って、えぇ!?」
先輩と話していたら、いつの間にか教室の前だ。すっかり夢中になっていた先輩との会話から意識を浮上させた。話上手で聞き上手な先輩との会話は、存外楽しかった。
「ユキちゃん、ごめんね。遅くなっちゃって。」
「あ、え、それはいいけど……!……えぇ!?」
クラスメイトで、特に仲がいいユキちゃんこと早名雪が私と先輩を交互に見ては目を白黒させている。見れば、周囲の人たちも私たち2人に注目しているようだ。
「えと…ユキちゃん?」
「は、初音!あんたなんで!と、隣にさ、茶戸先輩が……!どういうこと!?」
悲鳴をあげるように私に詰め寄り、慌てたような表情を見せるユキちゃんに、私は困惑してしまう。そんなに茶戸先輩がいるのはおかしいことだろうか。首を傾げた私とは反対に、先輩は楽しそうに笑っている。
「あはっ、みんなパニクってるね。クラスはここ?」
「はい、ありがとうございます先輩。紹介しますね。この子がさっき話したユキちゃんです。あと真琴は……。」
「ま、真琴!真琴来て!は、初音が!」
「……私まで引っ張り出さないでよ……。……あ、朝宮真琴です。どうも。」
「ユキちゃんに真琴ちゃんね。茶戸貴斗だ。よろしく。」
ユキちゃんと真琴に笑みを見せる先輩に、2人はさらに固まった。緊張しているのだろうか。表情も強張っている。
私は初対面のときのことを思い出した。私だってあんな感じだった。2人もすぐ先輩に慣れるだろう。
「ははっ。そんな固くなんないでよ。さっきたまたま初音と会ったんだ。重そーな荷物持ってるから、手伝っただけ。ここに置いとくね。」
「はい。ありがとうございます。」
「んーん。じゃ、俺はこれで。初音、俺も楽しみにしてるよ。……覚悟しといてね。」
最後にそう小さく溢すと、先輩はニコリと微笑んで背を向けて去ってしまった。慌ててその背にお礼を言うと、手だけ上げてヒラヒラと振っている。今の台詞は一体なんだったんだろう。
「初音!」
「ひゃうっ。ゆ、ユキちゃん?何?」
ユキちゃんに肩を掴まれ、驚いて考え事から意識を浮上させると、クラスメイトみんなから視線を受けていた。驚きで思わず辺りを見回す。
「なんで!あの先輩とあんな仲良さげなの?」
「そうよ、初音。こう言っちゃアレだけど、あの茶戸貴斗よ?悪名高い。危ないじゃないの。」
「あ、悪名高いって……。ほ、ほら、最近会長の手伝いしてたでしょ?その時に知り合って。」
「た、楽しみにしてるって……」
「文化祭の日、先輩のクラスを案内してもらうことになってね。それじゃないかな。」
まさかそんなに先輩も楽しみにしてるなんて思わなかったけど。もしかして、覚悟って、めっちゃ難しいよ!みたいなことかな。
その後も私は、クラスのみんなから質問攻めに遭い、先輩のことを根掘り葉掘り聞かれながら、準備に奔走した。
次話から貴斗視点です




