恋人らしいこと
景介視点です
「ていうか、景介さんは嬉しくないんですか?かわいい彼女と久しぶりに会えたんですよ?ほら、もっと喜んでもいいんですよ。」
そんな俺の感慨を壊すように舞菜が身を寄せて肘で突いてくる。
嬉しい……とは言い難い。俺の人生における最大の幸福は、若の側に侍り、若のなさることの補佐を、その歩みの障害となるものを排除し、若の望みを叶えることだ。そう考えると、若から離れているこの状況は、けして歓迎すべきことではない。……ない、のだが。
悪くないかも、とか思っている自分が信じられない。本当にこの子は、俺を振り回す天才だ。
「……ほんとに……貴女は私のことが好きなんですね。」
「とーぜんです!景介さんは?私のこと好きですか?」
俺が肯定を返すと信じ切った顔で見つめてくる舞菜に、笑みが漏れる。
俺なんかをこんなにも純粋に信じられるなんて。バカで愚かしく思える。でも、そこすら微笑ましくかわいらしく思えもする。
「……さぁ。どうでしょう。」
「え、ひどい!もー!本当に景介さんは乙女心が分かってないです!」
舞菜に多かれ少なかれ乱される心内に、少しいたずら心でそう言ってやれば、途端に口を尖らせ不機嫌そうな顔を見せる。俺の言動にいちいち表情を、機嫌を左右されている舞菜を見るのは面白くて、気分が良くて、心地いい。
それに、舞菜の機嫌を直すのなんて、俺にとっては造作もないことだ。
「舞菜。」
「え?」
へそを曲げてそっぽを向いている舞菜を呼び、こちらへ振り向かせる。
そう、とても簡単なことだ。舞菜はずっと、ただそれだけを俺に言い続けていたんだから。
”恋人らしいこと”。
そうだ。舞菜がこれまで散々そう俺に望んだ。恋人のような触れ合いを、恋人にするような態度を、この俺に。
なら、やってやろうじゃないか。俺に今できる、恋人らしいこと。
無防備な顔で俺の方へ振り向いた舞菜の、薄く開いた唇に狙いを定め、俺は顔を近づけた。
「んむっ……!?」
ちゅっ、と少し気恥ずかしい音を鳴らし、一抹の名残惜しさを感じつつ唇を離した。




