心配してくれる人
景介視点です
「こちらへどうぞ。私の部屋です。」
「えっ!景介さんの部屋!うわぁ、嬉しいです!ヘヘっ。わー、わー……、イメージ通り!」
俺の部屋に入り騒いでいる舞菜を適当にあしらいながら、軽く部屋を整える。こんな急に人を入れるつもりはなかったから、汚いとまでは言わずとも、私物や書類を出したままになっている。不覚だ。
まだあれこれと室内を見ている舞菜を座らせ、俺も隣に腰を下ろす。
「まったく。舞菜、言ったじゃないですか。長期間離れるから、大人しく待っているようにと。今回はたまたま数時間帰って来る用があったから戻っただけで、私にはやることがあるんです。」
「分かってますよぅ。でも、久しぶりに会えるチャンスだったんですよ。はしゃぐし、少しくらい話したいなって思うし、優しくしてほしいです。」
舞菜の訴えに、俺は眉をしかめて考えた。
舞菜が俺と恋人らしいことをしたいと思っていることは百も承知。当初から言っていたし、要望に応えてやれば、とても喜んでいた。
俺だって、嬉しいというか、むず痒い心持ちになるのは否めない。ちゃんと自分の中で舞菜のことを大事に思えているのも自覚しているし、喜ぶのであればやってやろうという気もある。
でも、今はそれよりも仕事をするので手一杯だ。親父も父さんも若も、日々寝る間を惜しんで仕事を処理している。もちろん、若の補佐である俺も言うまでもない。
「今はそれよりも大事なことがあると言いました。……最初に言った通り、私は貴女を1番にしてあげることができません。何を置いても、若のために動くから、貴女のことは二の次、三の次になると言いましたよね。」
「むぅ……。それは分かってますけど、せっかく会えたんですよ。少しくらい景介さんが無事に帰ってきたって安心したいじゃないですか。」
膨れて俺を見る舞菜に、俺も少し胸の詰まる思いがする。
……よく考えれば、今までこうして俺のことを待って、無事を喜んでくれたのは、母さんくらいだった。父さんは基本一緒に現地へ行くし、親父や若も同様だ。組員は残る人ももちろんいるけど、勝利、無事を確信している人がほとんど。そう考えると、真に俺を心配して無事を祈ってくれてたのは、母さんくらいだ。
それが今では、舞菜が俺のことを本当に案じてくれてる1人になった。好意を抱く相手が、俺のことを心配しているというのは、とても気分のいい事実だ。




