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また面白そうな存在が現れた

景介視点です

畑本先生の言葉に、ざわざわと落ち着かなかった気持ちが一気に凪いだ。

若に何もなくてよかった。また新たな仕事が舞い込んだ。2つの感情がグルグルする。


「……はぁぁぁ……。まさかこの時期に仕事を寄越されるとは思ってもいませんでしたよ。どうやら、文化祭の準備で人手がなく生徒会が大わらわというのは、我々の努力不足だと見なされているようです。それで、何の仕事をいただけるのでしょう、この憐れな独楽鼠に。」


一欠片の興味も湧かない面倒そうな仕事の予感に、つい刺々しい言葉と態度で八つ当たりしてしまう。組のものなら喜び勇んで請け負うのに、学校の、生徒会の仕事……。やる気も起きない。つい嫌味ったらしくなっても許してほしい。


「……お前、家の方でなんかあったのか?」

「……いえ。公私は分けるのが僕のモットーだったんですが。すいません、家は、大丈夫です。」


いけない。変に勘繰られると厄介な人だというのに、気を引き締めなくては。家でのことでずっと苛立っていた気分を落ち着かせる。この程度のことも意識しないといけないなんて、やはり2週間の休暇は、俺に多大なるダメージを与えているらしい。


「……それならいいが。で、仕事だが。文化祭後、ウチのクラスに転入生が入ることになった。生徒会の管轄で必要な書類を渡す。データ入力してくれ。」

「転入生ですか。珍しいですね。」

「あぁ、そうだな。」

「高校生で、しかもこの高校に。何かの有力選手とかですか。」


この高校は都内でも有数の進学校だ。一般的に入試より合格基準が高く設定される転入試験は、きっとハードルが高いはず。それでもわざわざここを選ぶってことは、他のセールスポイントがあったのだろうか。

にしても、そうでなくても全国レベルでトップを走る若や俺のいるここを選ぶなんて、物好きな奴もいるものだ。俺がそんなことを思っていると、畑本先生はため息をつきながら首を振っている。


「いや。……末恐ろしいガキなんて、お前と茶戸だけだと思ってたんだがな……。お前、ここの転入試験、満点通過するって信じられるか?」

「……まさか。貴斗じゃあるまいし……何者です?」

「愛知のトップ進学校から。これまでの模試もほぼトップ通過。将来を期待されたエリート様だと。」


畑本先生からの情報に、俺は驚き目を瞬かせた。模試をトップ通過なんて、まるで若のようだ。


「そんな秀才が1年に。すごいですね、興味が湧きました。僕の後継者には、その転入生を指名するのもいいですね。」

「好きにしろ。まぁ、そいつもいわゆる万能型らしい。頭脳明晰、運動神経も悪くない。……化け物級の高校生が集まってきてんな。」

「ほんとに貴斗みたいな生徒ですね。オールマイティーに……。」


畑本先生の話を聞く限り、かなり目立つ存在となりそうだ。そんな奴がウチのシマに入るのか。多少調べてもいいかもしれない。

俺は今後の予定に転入生の調査を組み込んだ。優秀であるということは、良くも悪くも目につく。下手をすれば、新たな諍いの種になりかねない。そうならないように下調べするのも、俺の大切な役割だ。


「分かりました。データ整理しておきますね。……手順書、残ってたかな。」

「それも含めて、必要な書類は揃っている。」

「用意がいいですね。ありがとうございます。では、失礼します。」


用意されていた書類を手に席を立ち、今後の予定を組み直す。渡されたものでデータがすべてなら、データ整理自体は1時間以内に終わりそうだ。だが、情報を集めるとなると時間が欲しいところだ。都内なら使い慣れた手足がごまんといるが、愛知となるとそうも言えない。

つらつらと考えを巡らせていると、畑本先生が静かに俺の名前を呼んだ。


「湧洞……。」

「……どうされました?」

「……あの人たちは、元気か?」


畑本先生……いや、龍司さんからの問いに、俺もふさわしい態度で返した。


「えぇ……。どなたもお変わりありませんよ。それに、何かあれば、龍司さんにも必ず連絡がいくかと。」

「……そう、だな。便りがないのが元気な証拠ってことか。よろしく言っておいてくれ。」

「ご自身で言ってはどうです?その方が、喜びますよ。」


少し安堵したように、でも寂しげな笑みを見せる龍司さんに、茶戸家の湧洞景介としてそう進言する。龍司さんはあの件を悔いているのだろうが、関わった人たちは皆気にしていないだろうし、会いたいとさえ思っているだろう。

しかし、龍司さんは何かに耐えるように顔を歪ませ、首を振った。


「俺には……あの門をくぐる資格はねぇよ。時間が経ちすぎた。」

「……我々は、いつでも歓迎しますよ。では先生、失礼します。」


小会議室を出て、ドアを閉めるとともに深いため息をついた。身の回りの問題が多すぎる。会長の仕事、転入生の素性調査、龍司さんとの間持ち。またストレスが溜まってしまう。若の側近としての仕事があれば万事解決なのに。

肩を落としながら、手元の書類を一瞥した。とりあえず、手っ取り早く片付けられそうなものを片付けよう。


「……藍峰駿弥、ねぇ。」


書類に記載された名をそっと呟く。やらなくては。直接若に侍り貢献することが叶わなくとも、その間にできることはある。必要とされたときにすぐ動けるようにしておかなければ。

次話から初音視点になります

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