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気分がいいから

景介視点です

押し退けるのも面倒で、左腕に腕を絡めてくる水輿さんをそのままにしていると、嬉しそうな顔で水輿さんが笑った。


「へへ。会長ってば、本当に強情ですね。いいでしょ?名前呼び!あ、私も名前で呼びましょうか?」

「お好きにどうぞ。貴女が私を会長と呼ぼうが何と呼ぼうが、特段気にはなりませんから。」

「え!本当に?いいんですか?」

「えぇ、どうぞ。……私の名前くらい知ってますよね?」


今までずっと会長呼びだった彼女に少し不安になって聞けば、自信のある面持ちで頷かれた。

……不安だ。

まぁ、俺の名前自体は若が呼んでるから大丈夫だろうか。


「えっとー……その、……け、けい……すけ、さん?」


恥ずかしそうに顔を赤らめてモジモジしながら、水輿さんが俺の名前を呼んだ。

日頃から色んな人に呼ばれ慣れている4文字に、不思議と胸が熱くなるものがあり、俺は少しだけ安心した。

俺もちゃんと、この子を好ましいと思えてるのか。友愛か恋愛かはともかく、俺はこの子のことを好きになれてる。


「……どうですか?私の名前を呼んでみて。」

「えぇ?!そういうこと聞きます?会長ってば、本当に意地悪ですね!」

「おや、もういいんですか?私は貴女に、この先ずっと私を名前で呼ぶ許可をあげたつもりだったんですが。」

「へぁ!?な、何急にそんな!」


真っ赤になって睨んでくる水輿さんに、つい笑みが溢れた。

俺にはあんなに名前で呼んでほしいと言っておきながら、自分が呼ぶとなるとここまで狼狽えるのか。


「貴女の思う恋人というものが、名前呼びを普通としているから、私に名前呼びを望んだんでしょう?」

「むぅ……。私は会長に呼んでほしかっただけで、自分が呼ぶのは考えてなかったんですぅ。ね、一回くらいいいじゃないですか。」

「……そんなに呼んでほしいんですか?」

「もちろん!」


期待を込めた目で俺を見てくる彼女に、なんとなく気分がよくなって、俺は口を開いた。


「……舞菜。」

「……ひぁ……。」


間抜けな声をあげた彼女を置いて、俺はラケットを手に立ち上がった。

……恥ずかしくて、隣になんて居られたもんじゃない。

燃えるように熱い耳に意識を持ってかれながら、平静を装いコートに戻った。

存外、俺も浮かれてるのかもしれない。恋人とデート、なんて状況に。そうでなければ、こんな気恥ずかしい真似、絶対しなかったのに。


「あ、待って会長!ずるいです!卑怯です!言い逃げ反対!」

「静かにしてください。」

「んもーっ!ほんと意地悪!」


後ろで憤慨しているのを聞きながら、俺は小さく息をついた。

……舞菜、か。今の俺はすこぶる気分がいい。また近いうちに、この名前を呼んでもいいと思うくらいには。この子があんなに動揺するほど喜ぶのであれば、呼ぶのもやぶさかではないから。


「さ、私はテニスを再開しますよ。貴女はどうします?」

「……いいですね、全然普通で。もう。絶対絶対、その顔真っ赤にしてみせるんですからね!……け、景介さん!」

「っ……。不意打ちは卑怯だろ……。」


前言撤回。そっちがその気なら、俺だって同じように対抗する。俺を名前で呼ぶというなら、こっちだって、その名を呼んでやろうじゃないか。


「やれるもんならやってみせろよ、……舞菜。」

「うひゃあっ!」

次話から貴斗視点が始まります

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