2人との今
畑本視点です
「……ってわけだ。……だからまじで一生瑛兄たちと関わるつもりなんてなかったんだよ。それをあのバカが……。」
気まずい……。こうして家にまで出入りしてるのに、啖呵きって別れた過去があるなんて自分の生徒にバレるとか……。
自分の生徒3人と、なぜかその後ろでニヤニヤしてる瑛兄から目を反らし、意味もなく頭を掻いた。
「畑もっちゃん……。すごい、すごいいい話じゃん!」
「うんうん!感動しました。」
そう言って飛びかかってくる水輿と目を輝かせる宇咲に、さらに居心地悪い気分になってくる。
俺としては、大事な後輩やられた上に泣いたツラまで見せた、すげぇ恥ずかしい過去だ。瑛兄と景太郎さんの弟分になれた、で終われてたら、別に恥ずかしくないんだけど。
「龍司、よく覚えてんじゃねぇか。」
「……忘れないって言っただろ。つか、忘れようがないだろ。瑛兄といた時間なんて。」
「ま、それもそうだな。さてと……そろそろ景太郎も手が空くころだな。俺の部屋に来いよ。そっちで話聞いてやるから。」
ガキみたいに目をキラキラさせた瑛兄が、俺の手を引きながら部屋の外へ向かう。
「あ、おい!あいつら帰さねぇと!」
「心配すんな。組の奴らに送らせる。おい、坂下。さっきの部屋にいる子2人、家まで送る手配してくれるか。頼んだぞ。これでいいな。」
「……俺、今日は家に帰るって忘れないでくれよ、瑛兄。」
強引に人を動かすとこも、ロクに人の話を聞かないとこも、何もかも変わっちゃいねぇ。
懐かしい感覚に、不覚にも少し笑みが出てしまった俺は、諦めて瑛兄の歩みに着いていく。それが伝わったのか、瑛兄も少し腕を引く力を弱めて、歩みも緩めた。
「龍司、お前の嫁って写真ねぇのか?」
「あるけど……。やだよ瑛兄に見せるの。ぜってぇからかうだろ。」
「当然だろ!俺らのかわいい弟分が、知らん間に結婚してたんだぞ。ネタにするしかねぇだろ。ほら、見せろよ。」
瑛兄がしつこく言い続けるのに根負けした俺は、渋々写真を瑛兄に向ける。途端にあがる瑛兄の歓声にさっそくイヤになってくる。
だから見せたくなかったんだよ……。
「いやー、美人度は凛華のが圧勝だけど、かわいいじゃねぇか。性格はどんなだ?」
「は?ウチの嫁のが美人だろ、どう考えても。……強ぇ女だよ。色んな意味でな。」
「おー、お前尻に敷かれてんのか?ま、嫁の言うことにゃあんま逆らわねぇ方が利口かもな。」
機嫌のいい瑛兄は、一等立派な扉を開け、中に入っていく。ここが瑛兄の部屋だ。
瑛兄の部屋で少し駄弁ってると、すぐに景太郎さんが部屋に来た。少し苛ついたように見えるのは、さっき湧洞に引き継ぐと言ってた仕事が、うまく引き継げなかったのか。
「……お待たせしました。」
「おー、景太郎。やっと来たな。もう話に入っていいか?」
「えぇ。龍司、話ってのを聞かせてくれ。」
瑛兄と景太郎さんに促され、俺は最近感じていたことを話した。
次話から景介視点です




