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若の想い人と先生と

景介視点です

「……はぁ。……、…………はぁ……。」


若に2週間の休暇を言い渡されてから4日。俺の心は早くも限界まで擦り切れていた。本当に若は2週間、俺に何もさせないつもりらしい。

この休暇が、俺にどれほどのストレスと苛々と罪悪感と無力感とショックと……まぁとにかく、この世のネガティブな感情すべてを感じさせているか、若はきっとご存じないに違いない。でなくば、このような仕打ちをなさるわけがない。

止まないため息を吐きながら、俺は手元の書類に目を走らせた。この4日間で、溜まっていたーー俺的にーー然して重要ではない生徒会長の仕事が頗る片付いているという事実に再度ため息を溢していると、控えめなノック音が聞こえた。


「はい、どうぞ。」

「会長、今大丈夫ですか?」


そう言って入ってきたのは、最近よく話すようになった後輩の初音ちゃんだ。俺は密かに少し気を張り、注意深く様子を見た。

彼女は若が想いを寄せる方だ。将来、きっと俺の上に立たれる。無礼がないように努めるのはもちろんだが、少しでも若へ情報を渡せるようにしておかねば。


「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」

「教室展示の最終報告書に会長印をお願いしたくて。確認お願いします。」


初音ちゃんはそう言って手に持っていた書類を差し出してきた。丁寧に書かれたそれは、一目見ただけで十分合格に足るものだ。


「……うん。オッケー。これで通しておくね。」

「よかった……。あ、今日はお手伝いすることありますか?」


胸を撫で下ろした初音ちゃんは、微笑みながらいつもの言葉を言った。

いつもの、と自然に思ってしまう自分に、内心苦笑いが漏れる。初音ちゃんがそう言うことが普通になってしまうほど、彼女の助力に頼りきりだったということだ。反省しなければ。いつまでも甘えるわけにはいかない。


「ううん。大丈夫だよ。今は余裕があるんだ。」

「そうなんですか?」

「うん。前に話した”別の仕事”の方が暇になっちゃって……。今はこっちに専念できるんだ。今までずっと初音ちゃんに頼りきりになってたけど、これからは俺の方でなんとかできそうでね。ごめんね、生徒会の仕事いっぱい手伝ってもらって。ありがとう。」


眉尻を下げ微笑むと、初音ちゃんは明るい声を上げた。


「いえいえ!私が好きでしてたことですし、気にしないでください。」

「そう言ってくれると助かるよ。……また、手が欲しくなったら、頼ってもいいかな?」

「もちろんです!……あ、そうだ。会長、準備最終日に提出する書類なんですけど。」

「ん?あぁ、あれか。うん。」


思い出したように声を上げた初音ちゃんは、少し困ったように眉を歪めた顔で話し始めた。どうやら、仕事が詰まっていて、直接持ってこれないらしい。俺は代役を立てても構わない旨を伝えた。

別に書類提出くらいなら気にしなくてもいいのに。さすが自分でも認める心配性。

そう思いながら笑うと、同じことを思ったのか、少し顔を赤らめ小さく、心配性なので……、と言っている。きっと、若もこういうところを好ましくお思いなのだろう。そう感じられるほど、可愛らしい様子だ。

……俺の今見ている光景を若に直接お届けできたなら、どれほど喜んでいただけただろう。


「……もう!笑わないでくださいよ!じゃ、じゃあ、その日はクラスの子に頼みますね。」

「オッケー。クラス名だけ言ってくれれば大丈夫だよ。」

「分かりました、ありがとうございます。では、私はこれで。会長、お先に失礼します。」

「うん。気をつけて帰ってね。」


部屋を出ていく初音ちゃんを見送り、残りの書類を片付けていく。組のものに比べれば、高校の一生徒が任される決済など、どうということもない。手早くまとめていく。

粗方片付け終わり、一人紅茶を淹れゆっくりしていると、内線が鳴った。職員室からだ。


「はい、生徒会室。湧洞です。」

『畑本だ。湧洞、今時間空いてるか?』

「畑本先生……。大丈夫ですが……、何かご用ですか。」

『あぁ。職員室に来てくれ。』


……あの人に呼び出されるなんて、何か問題でも起こったのだろうか。何も用件を言わずに無情にも切られた電話片手に嘆息する。

……まさか若に何かあったわけじゃないだろうな。俺にまで連絡が来るようなことを若がなさるとは思わないけど。

しかし、一度そう思ってしまえば、こんな呑気にティータイムを満喫している場合じゃない。一刻も早く畑本先生に話を聞かなくては。

急いで室内を片付け、俺は職員室の畑本先生の元へ向かった。俺が畑本先生の席に行くと、大量の書類を手にした先生に小会議室へと入れられた。


「……うし、湧洞。生徒会の仕事だ。」

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