茶戸家の中へ
畑本視点です
「親父、急に来て申し訳ありません。友人を連れてきたので、お目通り願います。」
「ん?珍しいな、景太郎。まぁ、座れ。そちらがその友人とやらか?」
「はい。畑本龍司。現在南京高校1年です。瑛史とも親交があり、近頃よく会っているので、今回親父にご紹介しようと参った次第です。」
湧洞が殊更丁寧な口調で対応するのを見ながら、俺は目の前のヤクザの親分に目を奪われていた。今までに感じたことのない威圧感。逆らっちゃダメだと本能的に分かってしまった。
これが、ヤクザの親分……。
「そうか。キミ。よく来た。我が家は、キミを歓迎しよう。」
「……あ、ありがとう、ございます。その、畑本龍司といいます。よ、よろしくお願いします。」
目を向けられ、俺は慌てて頭を下げた。
今まで誰の前に立とうとも、こんなに緊張したことはなかった。こんなにすごいものなのか、ヤクザの親分って……。
ガチガチに固まってしまった俺を、湧洞が仕方ないと呟いて立つように促した。
「親父、お時間頂いてありがとうございました。今後出入りすることもあるかと思いますので、期を見て顔見せを行いたいと考えております。親父に良い日頃を選んでいただけるとありがたいのですが、ご一考いただいてもよろしいでしょうか。」
「あぁ。考えておこう。日取りが決まれば声をかける。待っていなさい。」
「ありがとうございます。では、我々はこれで失礼します。」
一礼した湧洞に倣い、俺も頭を下げ退室した。
……息をするのも忘れそうな空間だった。心なしか息苦しい。生きて出れてよかった。
「よかったぜ、龍司。これでお前は安泰だ。」
「はあ?お前……っ!俺は聞いてねぇぞ、こんなの!」
「おー、言ってねぇからな。こっち来い。どっか部屋は……俺のでいいか。」
また家の中を連れ回され、1つの部屋に通された。
整理された部屋の中に高校の教科書や教材があるのを見て、本当に湧洞の部屋に通されたんだと安心した。またあんな人がいるようなところに通されては敵わない。
「……ん?おい、湧洞。お前ここに住んでるのか?」
「あぁ。」
「……親もここの人間なのか。」
「いんや。俺の親はいねぇ。母は男作って出てったし、父は抗争に巻き込まれて死んじまった。」
「あ……。その……、すまん。」
思ってもみなかった答えに、俺はそれしか言えなかった。
思いっきりナイーブなとこ踏み抜いた。しかも、並の重さじゃねぇ。気まずすぎる。
何を言っていいか分からず口をつぐんだ俺に、湧洞はいつも通りの口調で俺に声をかけた。
「やめろって、龍司。辛気クセェ。俺は気にしてねぇよ。そのおかげ……っつうのも変な話だが、俺は親父に拾ってもらえた。瑛史とこうしてバカやれてる。姐さんだって、俺を母親代わりとしてかわいがってくれてる。今の生活に、1つも不満なんてないんだからさ。」
「そうか。まぁ、本人が気にしてないんならいいけど。……じゃあお前は将来ここに入るのか?」
「あー、いや。この茶戸本家は瑛史の兄貴、新太兄ちゃんが継ぐから、俺は瑛史と分家作るって計画してんだ。」
楽しそうに言った湧洞に、俺も少しその未来を想像してみた。今みたいにわがままを言う茶戸と、それに怒りながら最後にはしょうがないと付き合ってる湧洞……。うん、楽しそうだな。
「……っと。今日はんな話をしに来たんじゃねぇよな。」
「!あ、あぁ。茶戸のこと、教えてくれんだろ?」




