お宅訪問
畑本視点です
よし、悩んでても仕方ねぇ。行ってみるか。
湧洞と喧嘩にもならない喧嘩をしてから1週間後の土曜日。俺はもらった紙を握りしめ、書いてある住所へ向かった。書いてある場所は、地図で見る限りバカみたいに広い家があるようなところだった。街の中心地から少し外れたところで、あまり人が行くような賑やかさはないところだ。
初めて行く場所に、ウロウロとさまよいながら巡り着いた俺は、目の前に建つ家に度肝を抜かれていた。
「……でっけー家だな。ここで合ってんのか?」
ボケーっとその家の門構えを見つめていた俺は、ハッと我に返りインターホンを鳴らした。
『こちら茶戸本家事務所。誰っすか。』
「あ……ゆ、湧洞景太郎、さん……に会いに……。畑本龍司です。」
やべぇ……。ヤクザの事務所だと?まさかとは思っていたが、何つーとこに呼び出しやがったんだ……!本当にここで合ってんだろうな?!
聞こえていた言葉に、俺は戦々恐々としながら応えた。これでもしなんか言われたら、すべてあいつのせいにしてすぐトンズラしよう。
落ち着かずソワソワしていると、相手は合点がいったように頷き、中へ入るように言ってきた。
恐る恐る門をくぐると、ちょうど湧洞が出てきた。俺は湧洞の姿に安堵し、肩の力を抜いて駆け寄った。
「来たか、龍司。」
「ゆ、湧洞!お前何だってこんなヤクザの……!」
「瑛史の家だからな。事務所は俺らの溜まり場なんだ。」
「だとしてもだろ!いきなりヤクザの事務所なんかに通されたら……!」
「なんだ、ビビっちまったのか?」
ニヤニヤと底意地の悪そうな顔で笑う湧洞を殴って、俺は玄関をくぐった。後ろから痛い痛いと軽い口調で言いながら湧洞が追ってくるのを待ち、湧洞の後に続いて廊下を歩いていった。キョロキョロと物珍しそうに辺りを見る俺たちに、組の構成員らしき人たちが、湧洞に気軽に話しかけてきた。
「お、景太郎。珍しいな、ダチ連れか?」
「そーなんすよ。あ、こいつ、南高の龍司って。後輩なんで、優しくしてやってくださいよ。」
「南高!?それでお前とつるんでるのか!エリート不良だな!変な道に連れ込むんじゃねぇぞ、景太郎。龍司っつったか?まぁ、ゆっくりしてけや。」
「あ、は、はい。ありがとうございます。」
フレンドリーな態度に呆気に取られていると、湧洞が1つの部屋の前で立ち止まった。
「龍司、一応親父に挨拶だけしとけ。茶戸の中で一番偉い人だ。覚えられて損はないはずだぞ。」
「お、親父?それって、ボスのことか?」
「おぅ。……あ、龍司。礼儀は正せよ。できる限りでいいから。親父、入ります。」
そう言って、湧洞は中へ入っていった。
この中に、ヤクザの親分……。そう考えるだけで、俺は緊張が最高潮になった。固唾を飲み、ソロソロと湧洞の後に続いた。
短編集に新しいお話をアップしました。
よければ覗いてみてください。
 




