茶戸と湧洞の関係
畑本視点です
念入りに体をほぐしていた湧洞が、俺をまっすぐ見据えてそう言い構えた。
茶戸が常に背を預けていると言ったくらいだ。どう考えても茶戸と同等に近い実力を持ってるだろう。油断したらすぐ負ける。
俺の一発目を難なく躱したのを皮切りに、湧洞も想像通りに卓越した実力を見せてきた。
「っらぁ……っ!」
「遅ぇなぁ、龍司。そんなんじゃ、景太郎には当たんねぇぞー。」
「るっせぇ!外野はだぁってろ!……くっそ……。」
「お前は素直なやつだなぁ、龍司。拳の軌道が丸見え、分かりやすい。」
「バカにしてんのか、んなこと言って!」
湧洞からのダメ出しに、俺は思わず怒鳴った。
今まで俺が相手してきたのは、どいつもこいつも頭の足んねぇ奴等だった。だから、俺も何も考えず拳を振るうだけでよかった。でも、茶戸も湧洞も、俺より頭の回転が早いのは、これまでに聞いた噂で察してきたところだ。センスも身体能力もいいこの2人を相手取るには、俺も頭を使った喧嘩をしないといけないんだろう。俺もどう動くか考えている。
しかし、まさか喧嘩相手から言われるとは。俺はそんなに分かりやすいんだろうか。
「バカにゃしてねぇよ。お前が勝ってくんなきゃ、瑛史に回せないだろ。お前があいつのこと一発殴ってくれたら、俺もスッキリする。」
「……茶戸の仲間じゃねぇのかよ。」
「いや、あいつ、普通にムカつくだろ。人の話聞かねぇし、勝手に決めるし、自分勝手だし。俺はあいつ以上にわがままで自分勝手な奴を知らない。」
「じゃなんで一緒にいるんだよ。」
確かに、湧洞の言う通り、茶戸は自分勝手だ。2回しか会ってない俺でも納得できる。
だが、そこまで言うのに、なんで湧洞は茶戸の相棒なんてやってるんだ?今の湧洞の様子を見ただけで、湧洞が茶戸の性格にうんざりしてるのが分かる。そこまで言うんなら、相棒なんてやめちまえばいいのに。
俺が呆れてそう言うと、湧洞も頭の痛い問題とでもいうように腕を組んで眉根を寄せた。
「本当にそうだよな。俺、よくあいつに付き合ってやれてるよ。自分でもすごいと思う。」
「何なんだよ、お前ら。」
「ま、しょうがない。俺はあいつに惚れ込んでんだ。死ぬまで相棒やるさ。」
「……。」
苦笑して、でも迷いなく言い切った湧洞に、俺は唇を噛み締めた。
「おーい、景太郎。俺帰っていいか?」
「お前が始めたことだろうが!せめて最後まで残れ!たく……。龍司、あいつのこと気になるなら、いつでも教えてやる。俺のとこに来い。これ、渡しとくからさ。」
小さな紙を渡してきた湧洞は、飽きたと言ってだらけている茶戸の頭を一発はたき、茶戸と帰っていった。
茶戸のこと……。湧洞は俺に何を教えてくれるというのか。茶戸のことを知ったら、俺もあいつに認められるようになるんだろうか。
渡された紙を片手に、俺はしばらくの間立ち尽くしていた。




