茶戸家の歓迎
畑本先生視点です
「おぉ!龍司じゃねぇか!どうしたんだ?」
宇咲らと共に車で茶戸家へ行くと、玄関に出ていた瑛兄に迎えられた。嬉しそうに口角の上がっている様子に、俺は少し気恥ずかしく応えた。
「あ、瑛兄……。あー……、その、瑛兄に話しときたいことがあってよ……。あと、こいつらにあの話を、な。」
「話か……。お前、今日はこれで仕事上がりか?」
「え?あ、あぁ。」
「なら泊まってけよ。ちょっと仕事が詰まってっから、遅くなりそうでな。飯もこっちで用意してやるからさ。」
「い、いや!嫁が待ってるし、今日はいい。」
笑みを浮かべる瑛兄に、心苦しくも断りを入れる。
急に外に泊まるだなんて言えば、嫁の香澄も困るだろう。ただでさえ、最近宇咲たちのことで帰りが遅い。あまり怒らせるのも嫌だからな。
「嫁!お前結婚してたのか!どんな嫁だ?美人か?……つーか、そうか……嫁待ってんならしょうがねぇな……。嫁さん我慢させてお前をこっちで捕まえんのも悪いからな。」
俺の嫁発言に、瑛兄は興奮してすぐに落ち込み始めた。分かりやすく肩を落とした瑛兄に、後ろから来た茶戸が笑い声を上げながら近づいてきた。
「あっれー。親父何しょんぼりしてんの?あ、初音!おかえり。ごめんね、今日も1人で行かせて。」
「ただいま戻りました、貴斗さん。私は大丈夫です。貴斗さんたちはお仕事大変ですから。」
「ありがと。で、親父は何……あれ、珍しいね。駿弥と舞菜ちゃんにりゅーちゃんまで。いらっしゃい。今日はどうしたの?あ、あがって。」
茶戸に促されるまま、広間に向かう。その道すがら目的を伝えると、茶戸は少し考えて提案を1つしてきた。
「りゅーちゃん。初音たちに話したら親父の書斎行きなよ。親父、決済くらいは俺代わってやっとくから。書類と印鑑俺にちょーだい。景介、今やってるやつは明日でも間に合うでしょ?俺の持ち分半分やってくれる?」
「承知しました。父さん、父さんも一緒に話聞いたら?今ソトとの交渉してるんでしょ?それ、代わるよ。」
「……分かった。先方には私から説明しておく。……ガキだからと舐められるなよ。」
次々と茶戸から指示が出され、俺は瑛兄と景太郎さんに話をできるようになった。
……やっぱ茶戸も湧洞も、並外れた能力があんだな。数秒考えただけでこれだけの段取りを立ててしまえる。……学生でこれだ。将来有望と見るか、生きづらいと見るか。瑛兄たちのことを1年間ずっと間近で見た経験のある俺から見りゃ、才能があるのは幸せなだけじゃないとは思う。
「じゃ、りゅーちゃん。こっちは1時間もあれば親父たちの時間空くからさ。それまではここでゆっくりしてなよ。」
「そうか。……急に来て悪かったな、茶戸。」
「あはは。別に気にしないで。こういうときに親父に恩売っときゃ、後で無茶できるんだからさ。それに、初音のこと守ってもらってるしね。」
いつもと変わらない軽薄な笑みを浮かべ、茶戸と湧洞は広間を出ていった。瑛兄と景太郎さんもそれに続き部屋を出ていくと、俺は宇咲たちに向き合った。
「あーっと……。俺と瑛兄たちの話だったな。」
「うんうん!パパさんたちとの出会いから聞きたいです!」
誰よりも前のめりになっている水輿にため息をつき、俺は3人に話を始めた。
次話から畑本先生視点の過去編が始まります。




