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そして俺は絶望する

景介視点です


「だからー、本家の人間だったってこと。」


若の言葉に頭を真っ白にし、呆然としていると、若の俺を呼ぶ声が聞こえてきた。こんなときでも俺の耳は若の声だけはしっかりと聞き逃さない。

若の声に正気が戻ると、俺の頭はすぐさま動きだし、これからすべきことを導き出した。

うん、よし。理解した。俺がすべきことはこれしかない。


「鋼太郎様、申し訳ございませんでした。此度の失態、とても我が身の謝罪ひとつで贖えるものではないとは、重々承知しております。……若、大変失礼なのは承知で申し上げます。今この瞬間を以てお暇を頂戴したく存じます。」


もう辞めるしかない。知らなかったとはいえ、本家の人間に俺が手を出したのは事実。そのせいで、若や茶戸家にご迷惑をおかけするわけにはいかない。

申し訳ありません、若。いつまでも若にお仕えすると心に誓っていましたが、それも叶わぬ夢と成り果ててしまいました。しかし、私は生涯若お1人のみを変わらぬ唯一の我が主と思い定め、尊敬し、お慕い申し上げます。

立ち上がり、最敬礼で謝罪しながら心の中でそう思い、若の言葉を待った。

……若は爆笑してるけど。

若?なぜそんなにも笑っていらっしゃるのでしょうか。……あぁ、いえ。若が笑っていらっしゃるのは一向に構いません。きっと、私の愚行を笑ってらっしゃるのだと分かっておりますから。……ただ。早く!俺に側近解任の絶望を与えるのなら早くしてください!

若の笑い声に耐えつつ、縋るように見つめていると、若が笑いながら口を開いた。


「あーっ、もう……っ。景介ってば……、くくっ。も……っ、予想通り過ぎて……っ!ふふっ……。やー、笑った笑った。ふぐっ……くくくっ。」

「わ、若?」

「んー?あぁ、ほら……バカなこと言ってないで座んなよ。」

「ば、ばか……。い、いや若、私は真面目に……!」


思わず身を乗り出し若に詰め寄ると、落ち着けとばかりに若の隣の座面を叩き示された。


「もー景介ってば。早とちりだよ。」

「は、早とちり、ですか?」


若の言葉に、俺は間の抜けた顔で目を瞬いた。何が早とちりなのだろうか。


「そ。大体、じーちゃんだってそんなことで殺らないから。」

「そ、れは……。もちろん、鋼太郎様の寛大さは重々承知しておりますが……。しかし、本家の方に手を出すのは、本家に手を出すのと同義。恐れ知らずにもそんなことを仕出かしておいて、この業界でのうのうと生きていくなど私には……。」

「じゃあ、俺が罰を与えてあげるよ。」

「へ?」

「いーでしょ?じーちゃん。こいつ、頑固だからさぁ、この業界で生きてくための大義名分与えないといけないんだって。ややこしい奴だよねぇ。」


そう言ってニコニコと笑う若を前に、俺は混乱し戸惑った声を出した。

若は何をお考えなのか。いや、若のことだ。俺なんかでは考え付かないようなことを考えておいでなのだろう。ならば、若がそうと決定したことを俺はただ粛々と受け入れるのみだ。

若のために、持てるすべてを若に捧げる。若の理想を叶えるためにできるすべてを遂行する。これが俺の信条だ。


「……貴斗と景介がそれでいいならわしは口出しせんが……。」

「若がお決めになったことに、私が否やを申し上げる道理はございません。どうぞ、お好きなように処罰を。」


床に正座し、若に頭を下げた。若がお命じになるなら、例え火に飛び込めとも、銃弾飛び交う戦場へ赴けとも言われようが、完遂するのみ。それが若のお望みなのだから。

そんなことを考えていた俺に、若は朗らかに俺への罰を宣言した。


「景介にはー……2週間の休暇を言い渡すよ。」

「……に、しゅうかんの……休暇……?」

「そ。2週間、ウチの仕事しちゃだめだよ。景介には、これが一番キツいんじゃない?ワーカホリックめ。」


予想もしていなかったーーそして、覚悟もしていなかったーー罰に、俺は一瞬動きを止めた。目の前で笑っている若はとても面白そうだな、と場違いな感想が浮かんできたところで、ようやく俺の脳は若の言葉を受け取り消化し始めた。

きゅうか……。旧家、球果、9か……休暇?


「……そ、れは……書類処理も?」

「当然だね。」

「ごうも、んんっ。取り調べも?」

「当たり前でしょ?2週間、俺の側近もなしで。仕事しないでね。」


……死んだ方がマシだ……。若がお側で色々となさっているのを見ながら、自分の仕事もできない、さらには若の手伝いさえできないなんて……!


「いっそ殺してくださいっ……、一思いに……!」

「ムリー。明日からそれで。学校のは別にいいんだよ?そっちやれば?」

「あれと家のでは重要度が違います!」

「ウチのは誰でもできるけど、あっちは会長印が欲しいもんねー。」


必死に言葉を重ね、別のものにしてもらおうと奮闘するも、若は悉く跳ね返してくる。まるで死刑宣告を突き付けられる心地だ。

若のお側で若のために動くことこそが俺の生きる意義だというのに、なぜ若はそこまで俺を休ませようとなさるのか……!


「……ほんとに、2週間も……?」

「うん。しつこいなぁ、俺の決めたことに否やはないんでしょ?」

「うぐっ……。……承知、しました……。慎んで、お受けいたします……。」


言質を取られていた。自分の発言が首を絞める。

確かに言った。もちろん、嘘はない、本心だ。でも、違うじゃん。俺の覚悟してた罰って、そーゆーんじゃないじゃん!つい内心で八つ当たってしまう。


「うんうん、それでいいよ。」


満足げに頷く若に、後悔ばかりが募る。ちゃんと覚悟してる範囲を言っておくべきだった。


「で、こっからが本題なんけど。」

「……本題?」


楽しそうな雰囲気を隠す様子のない若の弾んだ声に、俺は少し眉を寄せ首を傾げた。

今の、俺があり得ない過ちを犯したってのは本題じゃなかったのか?

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