覚悟を決めるとき
景介視点です
「貴女って人は……本当におかしな人ですね。」
「えぇ!?ひどいですよ会長。私は普通です!」
「私みたいに手の負えない男を好きになる子が、普通のはずありません。」
「えぇ?会長普通にイケメンだし、クラスの子とか好きって子いっぱいいましたよ?モテモテでした!」
なぜか誇らしげに胸を張る水輿さんに、俺は思わず吹き出した。
そうか、俺はモテモテか……。俺みたいな、人を甚振って愉悦を得るような人間が。
肩を震わせて笑う俺に、水輿さんは頬を膨らませて文句を言ってくる。
「あー、なんで笑うんですか?ねね、もうないんですか?会長の自虐テーマ。私の気持ちを信じてくれるまで続けてもいいんですよ?」
「はぁ?自虐なんかじゃありません。純然たる事実を言ったまでです。……そうですねぇ。もし、万が一、億が一貴女の好意が本物だとしても、貴女を私の一番にしてあげられることはありません。」
「えぇ!?堂々の二股宣言ですか?!それはさすがに傷つきました!」
「違います。ちょっと黙っててください。私は、若に大恩があります。若のおかげで今日まで生き長らえたと言っても過言ではありません。私の生涯は若に捧げてあり、何を置いても若のために動くことが私の喜びであり使命です。」
俺の熱の籠もった口ぶりに、水輿さんは不思議そうな顔をした後にハッとした表情を見せた。
「会長、もしかして……!同性愛」
「違う!少なくとも、俺が若に向けてるのは敬愛だ!」
「あ、そうなんですね。よかったぁ、私にも可能性あるってことですよね。」
ホッとした表情で胸を撫で下ろす水輿さんに、俺はどっと来た疲労を隠せず、深いため息をついた。
なぜこんなにも疲れるのか。なぜこんなに本題を話すのに時間がかかるのか。
諦めさせなければいけないのに、まったく思い通りにならない。
「とにかく!私の一番は若でしかなく、若以上の存在ができる可能性はありません!こんな男、好きになったところで不毛です。」
「えぇ?そうですか?モノは考えようだと思いますよ?ほら、お母さんと友達を同じ土台で好きの度合いを測らないでしょ?そういうことです!」
「……。貴女って人は……。」
「こーいうのは理屈じゃないですよ。好きなんだからしょうがない!てことで、会長。私を好きになってみませんか?」
俺のことを信じ切ったような表情で見つめてくる水輿さんを見て、俺は一瞬呼吸が止まったような感覚がした。
……まだ、好きじゃない。水輿さんを見ても後輩以上の感情は出てこない。でも。若しか大事にできない俺のことを知って尚、ここまで好きだと言ってくれるような奇特な女性なんて、きっとこの先現れない。
……うん。彼女が俺でいいって言ってるんだから、気にしなくてもいいだろう。
「……そこまで言うなら、なってみますか?俺の、カノジョの立場に。」
「へ?……えぇ!?ほ、ほんとですか?」
「えぇ。どうします?百人中百人がやめとけと言いそうな不良物件ですが。それでもこの手を取るなら、若や茶戸家の次くらいには、大事にしてあげますよ。」
水輿さんの方へ手を伸ばすと、水輿さんは俺の顔と手を交互に見つめ、やがて覚悟を決めたように破顔し、俺の手を取った。
「望むところです!嬉しいです!あぁ、夢みたい!」
「ほんと、貴女は暢気ですね。嫌気が差したらいつでも言ってくださいね。すぐ開放してあげますから。」
「あぁ!やっぱり会長ムードなぁい。今そんなこと言うなんてダメダメです!何よりも減点ポイントですよ!」
水輿さんが突進してくるのを手で押しやり、ため息を吐く。
また抱え込むものが増えてしまった。親父と若にご報告して、いろんな手続きを進めなければ。父さんは……まぁ親父に言えば伝わるか。余計な詮索を正面で受けるのも面倒だし、今は言わずともいいだろう。
駿弥が来るまでの間、キャイキャイと騒ぐ水輿さんを片手でいなしながら、今後しなければいけないことを考え続けた。
次話から貴斗視点が始まります




