彼女のために仕方ないこと
景介視点です
「……。」
「会長会長、ホントにコーヒーだけでいいんですか?ここ、フルーツがおいしいってめっちゃ有名なカフェですよ?」
「はぁ……。」
盛りに盛られたフルーツパンケーキを前に、俺は深く思いため息をついた。目の前にいる水輿さんは、そのパンケーキにフォークとナイフを構え、目を輝かせている。
完全に若にしてやられた。この状況を作り出すために、ここへ入ったに違いない。
そりゃ、若ならば俺たちをどこかで撒いてお嬢と2人きりになるのも、容易にできるだろう。なかなかデートなどもできておられない身だから、少しくらい除け者にされたところでどうということもない。むしろ、思う存分楽しんでいただきたい。
ただ……ただ!タイミングは考慮していただきたかった……!なぜよりにもよって彼女のいるときに……。いや、完全に面白がって送り出されたから、水輿さんと俺はセットで追いやるのも、若の考えの内だったんだろうけど。
「かーいちょー?もう!デート中に上の空なんて、会長ったら失礼ですよ!紳士の風上にも置けません。」
「む……。誰と誰がデート中ですか。貴女ねぇ、我々は若に嵌められたんですよ。お嬢とデートするために!」
「あははっ。お嬢って初めて聞きました。じゃあ、私たちも遠慮なくデートできますね。」
「……冗談じゃない。貴女はそれを食べたらすぐに帰ってください。私は適当にここらへんを見回ってきますので。これで解散としましょう。」
「えぇ!?イヤです、私も一緒に」
「着いてくるなと言っているんです。私と一緒にいても、貴女の望むものは手に入らないし、危険な目に遭うだけですよ。」
席を立つ俺を引き留めようと腰を浮かせた彼女を睨みつけ、最後通牒を突きつける。これでも聞かないようなら、少しばかり痛い目を見てもらうことも考えなければ。
「っ……。」
案の定動きの止まった彼女を置いて、俺は会計を済ませ店を出る。
正直、ここまで慕われていることについては、悪い気はしていない。当然人からの好意を嬉しく思う心はあるし、可能な限り無下にしたくないと思う気持ちもある。
でも、俺の置かれている状況を鑑みれば、どうするべきかなんて自明の理だ。俺との悪縁なんて、ここで断ち切らせなければいけないことなのだ。
仕方のないこと。慕ってくれる後輩を失うのは惜しいし、俺のせいでお嬢とも疎遠にしてしまうかもしれないと思うと心が痛むが、そのときは俺がうまく立ち回りお嬢と彼女の時間を作ればいいだけのこと。
若とお嬢のことを思えば、このくらい、どうということもないだろう。
「……大丈夫、この世界に入った時点で他人に疎まれる用意はできてる。俺の生涯は、若とともにありさえすればいいんだから。」




