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恐怖の定例会

景介視点です

「今から定例会を始める。貴斗、議題は。」


週末。茶戸本家でいつも通り定例会が開かれた。高座から広間を見渡す鋼太郎様の声に、上座の位置に座す若が進行を始めた。

俺は若の補佐としてその後ろに控えながら、全体を眺めた。列席するのは全員各組の上役だ。普通なら歴戦の猛者が一堂に会すこの眺めは壮観なのだろうが、俺の目から見たら、ひどく醜悪なものでしかない。関係の悪いところを睨み、どうやって引きずり落とそうかと狙っている輩や、自らの犯した罪の露呈を恐れ青ざめている輩ーー無論、この世界で茶戸家に感知できないことはないので、この後断罪する予定だーー、そして、愚かとしか言い様がないが、若に対して憎らしげな目を向けている輩。

定例会は、いつでも薄汚れた意識が溢れている。


「最近頻発してるいざこざについて、渡した資料に載ってるけど、景介から補足ね。景介。」

「はい。先月からの伸び率は約14.8%。調査開始時から約63.4%です。その他、各地区にて発生抑止、防止可能であったと推測される事件が少なくない数発生していることも、無関係とは言えないかと、愚考いたします。」


独自調査で判明している事柄を並べ立て、逐一これに関与していると考えられる人物に目を向けると、分かりやすく顔色を変えている。あまりの愚かさと分かりやすさに、冷笑が出てしまう。


「……以上です。」

「ありがとー、景介。……今のに何か申し開きのある人いる?言い分があるなら今聞くよ。」


全体を見回しながら穏やかでも凄みのある笑みで若が聞くと、連中は全員目を逸らし押し黙った。高座では、鋼太郎が険しい顔でその様子を見つめている。


「……いーの?んじゃ、後で取り調べの招待状送るね。ご協力お願いしまーす。次の議題はー……っと。……ねー、じーちゃん。これ、まだやるの?いい加減強権発動して決めればいいのに。」

「無論。意見を言う組がいる以上、話し合い、双方納得する形にしなければいけない。」

「ふーん。俺としては、誰でもいいから能力のある奴がやればいいと思うんだけどね。茶戸本家の後継者について話そーか。……じーちゃんとしては血縁、つまり、うちの親父・俺・孝汰・美南から出したい。茶戸家としては血縁に強いこだわりはないけど、能力がある奴がやればいいってのが総意。んで?意見があるって組はどこ?」

「かねてより各組から色々と聞いてはいるが、今一つ要領を得んものも多い。茶戸の名に連なるもの、この関東に少なからず影響を与えるものが集まる定例会で、全員が納得できるよう話を詰めてしまいたい。遠慮せず、自らの意を述べなさい。」


静かにそう告げ前を見据える鋼太郎様に、口を開く輩がいるはずもなかった。当然だろう、文句を言ってくる奴等は、茶戸家から出るのが気にくわず、自らの影響力を上げられる人物の指名を目論んでいるに過ぎない。茶戸本家の利用価値は高く、その幹部、それも頭首になれたら、裏世界を掌握したも同然。裏世界にいる者なら常識として知っている。茶戸家を制するものがこの世界を制するのだと。


「……無いみたいだよ、じーちゃん。」

「……はぁ。意見がないのなら、こちらで話を進める。貴斗、瑛史に1度来るように伝えてくれ。」

「来るかの保証はできないけど、了解。今のが最後の議題だったけど、じーちゃん何かある?」


ピリついた空気に少しだけ緩みが見えた。俺は今まで以上に注意深く室内を観察した。こういう空気の緩んだ瞬間にこそ、隙は見えるというものだ。

若の言葉に鋼太郎様は嘆息し、広間全体へと視線を走らせた。


「貴斗からの報告の通り、各々反省すべきことはあるようだ。……無益な争いは、互いに禍根しか生まん。よく考えて行動しなさい。わしも、この中から争い相手を生み出したくない。……わしに、本気を出させるような真似、するんじゃないぞ。」

『……はっ。』


最後に、業界最凶と恐れられている鋼太郎様の一睨みを向けられれば、場の人間は従うしかない。全員、静かに頭を下げ、恭順の意を示した。

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