信頼できるけど
駿弥視点です
「……まぁ、そうだな。理解はできる。文字通り生命線である宇咲さんを手放す行為だもんな。」
貴斗が笑って言ったその言葉に、俺も頷いた。
いくら宇咲さんが貴斗のことを好きでも、いきなり迫られたり襲いかかられたりしたら、それはもう恐怖の対象にしかならないだろう。宇咲さんとの合意があれば問題はないだろうが、少なからず気が立っていて、一から十まで完璧に配慮できるか分からない状況では、自分が何かしでかさないか、恐ろしくもある。
そう考えれば、貴斗の性格上可能性は限りなくゼロと言える、ということだ。
でも、性欲を発散させる方法なんて、今時いくらでもある。年齢制限を気にしなければ、手段なんてそこらにたくさん転がってる。そこに手を出そうとも思ってないんだろうか。
俺のもの言いたげな目に気づいたのか、貴斗は眉を下げて苦笑した。
「駿弥何、その目は。他にも考慮すべきことがあるってこと?」
「……今時、方法なんていっぱいあるよなって……。」
「あっはは。なぁに?俺に18禁勧めてんの?駿弥ってば悪い奴だなぁ。俺はまだ今年で17だよ?」
「お前が今更そんな法律規則を遵守するような殊勝な奴だなんて思ってねぇんだよ。反社のバカ。」
「ちょっと、今の悪口?後で殴るよ。」
「好きにしろ。……俺はただ、どんな形であれ、宇咲さんに傷ついてほしくないだけだ。」
あの優しくて純粋で、忌々しいことに貴斗のことを大好きで大事に思ってる宇咲さん。
自分が恋人に邪な目で見られているとしても、恋人がそんなものに手を出しているとしても、少なからずショックを受けるだろうし、もしかしたら悲しむかもしれない。そんな事態は、俺の望むところではない。
「お前にそんな心配させるようなこと、俺はした覚えないんだけどなぁ。」
「……俺はお前のことは様々な面で全面的に信頼してるけど、全面的に信用ならないとも思ってる。よって正当な心配だ。」
「ひっど。お前けっこー度胸あるよね。この茶戸貴斗にそんな口叩くのなんて、お前と親父くらいのもんだよ。あーあ、会ったばっかの頃は多少可愛げもあったのに。生意気になっちゃって。」
ケラケラと笑い、俺をからかってくる貴斗。その様子から戯言として無視する。
そもそも、もちろん俺は貴斗の宇咲さんへの誠実さや真剣さを知っている。だから、宇咲さんが怖がることは絶対にしないと信じられる。
でも、こいつの普通じゃない思考も感覚も行動も知ってる身としては、万が一がないとも言えない。何をしでかしても納得できるだけの実績が、こいつにはある。
「まぁ、間違ってるなんて非難する気はないよ。むしろ俺のことよく分かってるね。」
……こういうところがあるから、俺は100%信用できないんだ。
平然と自らを貶める発言をする貴斗に、俺は眉を寄せて睨んだ。
景介も言っていたが、俺もこいつのこの自分をすぐ卑下する性格はどうにかした方がいいと思う。いつかこいつがそのせいで取り返しのつかない不幸を呼び寄せてしまいそうで、こちらがハラハラする羽目になるのだから。
次話から初音視点が始まります




