貴斗を取り囲む状況
景介視点です
俺の説明に、駿弥は腑に落ちないといった顔をしている。
「……貴斗はなんで盃を?」
「ケジメ、だろうなぁ。やっぱさ、年少ってだけで嘗めてくる奴は多いし、その上血縁ってだけで若頭の地位に就いたって妬む奴もいる。誰にも文句を言わせないように、慣例を守ったってことだな。」
本当に煩わしい輩ばかりだ。若の邪魔ばかりして。そのせいで若が遣わなくていい気を遣うことになるのだ。少しは若のお役に立ってから口を出してほしいものだ。
駿弥は俺の気持ちに同調するように顔をしかめて相槌を打った。
「ふーん……。思った以上に面倒なもんだな、そこらへん。」
「時代遅れな老害が多いんだ、仕方ない。でも貴斗は余計な波風立てるのを嫌うし、多少手間でもそれであっちの気が収まるならそれでいいって。」
「……貴斗って、思ってる以上にそこらへん慎重だよな。喧嘩っ早いくせに諍いが起こるのは避けてる節がある。」
駿弥の呟きに俺は苦笑した。
貴斗の今の性格は今まで経験してきた過去の事件に依るところが大きい。
奪われないために苛烈になり、守るために慎重になり、怖がらせないために明朗になり、恐れを知るから過剰になった。
幼い頃から他者に干渉され、影響を与えてきたが故に、端から見ればちぐはぐな印象を残す性格になった。
これも、貴斗の処世術の1つだ。そうならなければ普通の生活を送ることができないから、そうならざるを得なかったのだ。
「貴斗は根が優しいから、周囲に気を遣いすぎるんだよな。正直、この組の頂点に立つんだし、茶戸の血を引いてるんだから、もっと傍若無人になっても周囲は文句を言えないし、許されると思うんだけどね。」
「周囲が許すんじゃなくて、お前が許させるんだろ……。でも、今のあいつみたいな性格の方が上に立つのに向いてるのかもしれないだろ。バランス感覚あって。」
駿弥の、若のことをプラスに捉える呟きに、俺は小さく笑った。
俺の言うことではないけれど、駿弥もずいぶんと若贔屓、貴斗贔屓が定着してきた。いい傾向だ。
元々駿弥が転校してきたときの状況から貴斗がしてきたことまでの一連の流れは、洗脳のそれに近いものだから仕方ないけど。
俺としても、貴斗の味方が1人でも多いのは歓迎すべきことだ。貴斗は肝も据わってるし、経験に裏打ちされた知識と実力があるのに、妙なところで自信がないから困ったものだ。だから、常日頃からそば近くで貴斗を肯定してくれる存在がいてくれると、俺としても嬉しい。
あの貴斗の自信のなさが、いつか貴斗の足を掬う前に、認識を改めさせなければ。
次話から駿弥視点が始まります




