帰ってきた
景介視点です
「さ、みんな待ってるね。早く降りてあげなきゃ。」
「そうですね。では、若。お先に失礼します。」
俺は先に降車し、若の座る側のドアを開けた。そして腰を落とし、頭を下げる。門前から玄関まで並んだ組員も、一斉に頭を下げ、声を揃えた。
『お帰りなさい、親父、若!』
組員の声が響く。100人を優に超える人数の、ぴったり揃った声は、頭にビリビリと痺れてくる。
「おー、戻ったぞー。」「ただいまー。初音いるー?」
それに対し、親父と若は軽い様子で応えていく。若なんて、最初から最後までお嬢にしか興味を持っていない。しかし、その堂々とした姿と、傷の1つもない様子に、茶戸家の完全勝利が改めて組員に示された。
「貴斗さん!」
「初音!ただいま。元気にしてた?危ないことはなかった?けがとかしてない?」
「私は大丈夫です。それより、危なかったのは貴斗さんですよ。お怪我はないですか?」
きょろきょろと周囲を見回し、お嬢の姿を認めた若は、表情を明らめすぐさま駆け寄ると、人目も憚らず強く抱きしめた。お嬢も、驚きながらも嬉しそうに笑いながら若を受け入れている。
去年の様子を知っているだけに、少々感慨深くなる光景だ。怯え、若を忌避していたお嬢が、あんなにも若に心を許し、受け入れている。
さすが若だ。若にかかればどんな人間も好意を抱き、そのお心の内に存在を許されたいと願うのだ。
「景介、おかえり。」
「駿弥。そちらこそ、お疲れ様でした。問題などはありませんでしたか?」
「あぁ。こっちは平和なものだった。そっちは……まぁ貴斗の見れば成功に終わったことは想像に難くない。」
若の見つめ苦笑した駿弥に、俺は笑みを見せて頷いた。
「えぇ。この上ないほどの成功でした。今回押収した書類を元に、さらに余罪を追及するつもりです。」
「……まだまだ仕事は山積みってことだな。手が欲しいなら俺も手伝うぞ。景介、俺を雇ってみないか?」
「君をこちらのどこまで関わらせるかは、若の判断に委ねられていますから。交渉は若へお願いします。」
目を輝かせ俺を見てきた駿弥に、俺はニッコリと若を示す。ずっと若が聞く耳を持たないから、ターゲットを俺に変えたんだろう。
しかし、俺とて若と同じ反応を返すほかない。若がしないと言うことに俺が色よい返事をすると思ってるのだろうか。だとしたら、駿弥は俺のことを分かってなさすぎだ。
「はは……ガード堅ぇ。ちなみに、俺の勝率はどのくらいと考えて言ってるの?」
「これまでの若のお振る舞いからも明白なことかと。まぁ……OKが出るようなら、それは億が一の事態と言うことでしょう。」
面白くなさそうな駿弥は、諦めた様子でため息をつき、若たちの方へ歩いていく。俺もそれに続き、若たちとともに1週間ぶりに事務所の玄関をくぐった。




