貴斗の代わりに
駿弥視点です
その後も2人で軽く言い合いをしていると、貴斗の親父さんが出てきた。そして、貴斗の頭に重そうなゲンコツを落とした。
ゴッっていった……。痛そうだし重そう……。さすが親父さん。
「うるせぇぞバカ。さっさと準備しろ。」
「……ってぇ……。まじ……親父、実はゴリラなんじゃないの……。頭へこんだ……。」
「へこんだなら、そりゃ軟弱なてめぇの頭蓋骨が悪い。俺はゴリラじゃねぇ。ほら、景介が待ってんだから早く行ってやれ。」
「へいへい……。じゃーね、駿弥。1週間後、楽しみにしてるよ。」
「あぁ、待ってる。……親父さんも、気を付けて行ってきてください。」
頭を擦りながら景介のいる方へ向かった貴斗を見送り、俺は親父さんにも声をかけた。
親父さんも貴斗たちと一緒に現場へ向かい、現場の総指揮を執るそうだ。親父さんには色々と便宜を図ってもらっていたし、何よりとても温かく迎え入れ受け入れてもらった。無事に帰ってくるよう祈るばかりだ。
「おぅ、駿弥。悪ぃな、厄介事に巻き込んじまって。あのボンクラバカの代わりに、初音ちゃんのこと守ってやってくれよ。」
「はい。任せてください。宇咲さんには、かすり傷1つ付けさせませんので。」
「頼もしいこった。じゃ、お前も気ぃつけろよ。すぐ戻ってくっからよ。」
親父さんも去り、いよいよ一行を乗せた車が次々に発進していく。黒塗りの車を見送り、全部出ていったところで、俺は茶戸家の家の中へ戻った。
「駿弥くん。みんなもう行ったんだね。」
「あぁ。……宇咲さん、……その、俺が絶対に貴斗の代わりに守るから。安心して任せてほしい。」
「うん。駿弥くんがそう言ってくれて嬉しい。」
いつもと変わらない笑みを浮かべ、宇咲さんが頷いた。貴斗と同じくらい信頼されていると思っても、いいんだろうか。
宇咲さんと広間へ行くと、宇咲さんの兄である颯志さんが出迎えた。
「初音。みんな行ったのか?」
「うん。もう行ったみたい。ちょっと実感ないけど、貴斗さん、1週間いないんだね。」
寂しそうに目を伏せ、宇咲さんがそう呟く。
やはり、貴斗の存在が安心材料であることはみな変わらないんだろう。颯志さんも、少し不安そうにため息をついた。
「そうだな……。駿弥くんは?この1週間どうすんだ?」
「ここに泊まります。親にも、友人の家に行くと言ってあるので、問題ありません。」
「そうなのか。まぁ、俺はあんまり戦力にはなれないけどさ。手伝えることがあればなんでも言ってくれよ。」
「ありがとうございます。きっと颯志さんのお力を借りたい場面はたくさんあるでしょうから、遠慮なくお願いすると思います。」
人の好さそうな笑顔でそう言う颯志さんに、助力を依頼する。実際、きっと颯志さんには助力してほしいことがたくさんできるだろう。戦力ではなく、サポートとしても貴重な人員だ。
「……今日から貴斗と景介がいない。俺も、気を引き締めなければ。」
だからと言って、やはり一番の戦力は俺になる。いつ何があっても宇咲さんを守れる状態にしておかなければ。
颯志さんと宇咲さんが並ぶ後ろで、俺は小さく呟いた。
次話から初音視点が始まります
 




