認められるためなら容赦はしない
駿弥視点です
慎重に周囲を見回しながら、俺は3階へ向かう。雑居ビル内は思った以上に音はなく、本当に人がいるのかも疑わしいほどだ。薄暗く、不潔とまでは言わずとも汚れている建物に、思わず眉をひそめる。
「ここか……。」
音がしないように気をつけてドアを開け、中を窺う。すぐの部屋には誰もいないが、右側の部屋の方からうっすらと明かりが見え、かすかに声も聞こえる。ちゃんと会長の調査通りにいるようだ。
閉められたその部屋のドアノブを回し、俺は勢いよくドアを開いた。
「っなんだてめぇ!どこのどいつだ!」
「えぇっと、言って……いいんだよな。俺は茶戸家から来た。」
「茶戸!?あ、あそこの若頭の指示か?!」
「そうだ。」
先パイの名前を出せば、揃って全員顔を青ざめさせた。完全に怖じ気づき、動きが止まってしまっている。これでは先に進むこともない。早く終わらせてしまいたいのに。来ないのなら、こちらからいってもいいだろうか。
「うおっ!?」
「何すんだ!」
振りかぶった拳は1人に当たり、盛大に吹っ飛んだ。それを見て残りの3人が騒ぎだし、狼狽えながらも俺に向かってくる。
「お前らを捕らえるように言われてるんだ。大人しくお縄についてもらおうか。」
「くそっ。やられてたまるかよ!おい!やれ!」
3人がかりで飛びかかってくるのを、俺は危なげなくかわし、1人を床に引き倒す。背を踏みつけ後ろにいる奴の顔へ振り向きざまの顔に一発。続けて腹にも一発。これで3人が動けなくなった。残るは1人だ。
「な、なんて奴だ……。」
「残るはお前だけだ。早く降参した方が身のためだぞ。」
対峙した男は、汗を額から滝のように流しながらこちらを睨み付けてきている。俺は冷静に相手を見据え、体の動きを探った。
数秒見合った後、相手が腰を落とし突進してくる。
それを見て、俺は頭に狙いを定め、瞬間はっとした。懐に光るものが見えた気がした。
このまま頭に手を伸ばせば、俺の胴体はがら空きだ。そのまま腹に刃物が刺さる。
瞬間の思考の末、体を後ろに引き、上体を横に逸らして刃物を回避した。
「っ!」
「あっ……ぶねぇなぁ!」
ヒヤリとした思いのまま叫び、横にある頭をひっつかみ、思いきり床めがけて叩きつける。
「あがっ……。」
「はぁ、はぁ、……はぁぁぁぁ。あっぶなかったぁ……。……縛るか。」
床に倒れ伏している4人を見下ろし、肩を撫で下ろしながら結束バンドで縛っていく。
少し危ない瞬間もあったが、概ね成功だろう。ミッション成功に笑みが浮かんだ。
「……もう、1時間半も経ってたのか。ギリギリだったな。……もしもし、会長。今終わりました。全員縛ってあります。」
『そうですか。けがはありませんね。』
「はい。大丈夫です。」
『それはよかった。今から若と共にそちらへ向かいます。周囲への警戒は怠らず、そこで待っていてください。』
会長への報告を終え、扉が見える位置に座り込んだ。今日の出来に、先パイたちはどんな評価を下すのだろう。満点、とまではいかずとも、高評価をもらいたい。そして、できれば先パイの隣に立つことを認めてほしい。




