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幼馴染みの困った趣味と、ボロボロの襲撃者

貴斗視点です。


詳細に描いていないつもりですが、拷問された男について描写があります。

気を付けてお読みください。

「よーし、これで決済しゅーりょーっと。」


山のようにつまれていた書類も粗方片付き、俺はずっと張り付いていたパソコンから顔を上げた。固まった体を解すように伸びながら、俺は色々なことを考えた。組のこと、親父に話したいこと、定例会のこと。その中でも、頭の大部分を占めているのは初音のことだ。

初音は今、何をしてるかな。今日のこと、どう思ってるだろう、少しでも意識に残ればいい。それを知る手段もなければ、知ってもいい関係も持ち合わせていないけど。早く、対外的にだけでも初音の隣にいる権利を手に入れたいものだ。


「……ま、今焦っても仕方ないよね。……ん、そろそろ景介を呼びに行かないと。」


夕飯前に一区切りつけると言っていた。興に乗ると手がつけられなくなる。情報を得るためだから尋問が度を越すのは容認しているが、無闇にかわいそうな被害者を作るつもりはない。少し早めに引っぺがさなければ。

部屋での話し合いの後すぐに、今ではあいつしか使っていないあの部屋へ意気揚々と向かった景介に、俺の気分は下がっていく。あれをするのは1ヶ月ぶりだったはずだ。下手したら手遅れかもしれない。あいつの趣味も兼ねているわけだし。俺が喧嘩を1ヶ月もできなかったら発狂する自信があるし、1ヶ月ぶりの喧嘩ともなれば手加減できる気がしない。うん、あいつがそうであってもおかしくない。

でも、やだなぁ、今あの部屋に入るの。どーせまだやってるし。絶賛ブラッディカーニバル開催中だったらどうしよう。血溜まりでも針山でも水責めでも、景介のは手加減ってのがないから、常に相手は瀕死だ。

そんなことを考えながら俺が茶戸家の暗部そのものでもある一等厳重な扉を見つめていると、扉の向こうからくぐもった呻き声が聞こえてきた。


「うへぇ……やってるよ……。はぁ……。景介ー、入るよー。」


どうせ聞こえていやしないだろうが、一応声をかけてから中に入ると、景介は生き生きとした顔で鞭を振るっていた。

……まぁ、本人がいいならいいんだけど、ほんとよくやれるよね、こんなこと。


「さ、早く吐いた方が身のためですよ。誰の指示で、何が目的なんですか?言わないのなら次は背中に」

「けーいすけ。」

「若?あぁ、申し訳ございません。気づきませんでした。」

「ん。気にしないで。……にしても、すごいねぇ。大丈夫?」

「まだ始めたばかりですから。お目汚しをいたしますこと、ご容赦ください。」


柔らかく笑みを浮かべ頭を下げる景介の手にある鞭には血が滴っているし、手首を縛られ吊るされている男の腹部には痛々しい裂傷やみみず腫が多く走っている。とても始めたばかりとは思えない。心なしか、景介の言葉に男も固まってしまったように見える。


「そろそろ区切りつけたらどう?」

「ふむ。そうですね。そうします。後に回してしまいますね。」


手早く道具やら何やらを片付け始める景介を余所に、俺は男の元へと近寄った。見るも無残な姿になっているそいつは、体中から色んな体液を噴出させている。この短時間で行われた拷問の凄惨さを物語っているようだ。


「若、あまり近寄られますと、お召し物が汚れます。お気をつけくださいますよう。」

「分かってるよ。ねー、キミ。」

「て、めぇ……は……。」


空気の僅かな振動のように掠れた小さい声で、俺の言葉に反応する。苦痛に歪みながらも俺を睨み付ける男は、なるほど、根性はありそうだ。


「おい、若の御前で頭が高い。」

「うぐっ……。」


容赦なく男の頭を引っ掴み無理矢理頭を下げさせる景介を宥めながら、俺は再度男に声をかけた。


「キミさ、どーしてウチのシマで暴れたの?ボス?」

「言うわけ……、ない……っ。」

「ふーん。……そーいえばさぁ、奥さんと子どもはみんな無事なの?」

「へ……て、てめぇそれどこで……っ!ふぐぅ……っ。」

「うるさい。若、申し訳ございません。続きを。」


俺に噛みついてくる男はここで初めて動揺したのか、目線が下がり、顔から血の気が引いている。やはりこういう場面で家族の話題は効果抜群だ。


「ふふっ。大丈夫?こんなとこで油売ってて。口を閉ざしてる時間の分だけ、キミの家族に危険が迫るんだよ。今ね、ウチの組員を数人、向かわせてるんだ。」

「なっ……。」

「向かってる奴らはね、俺の言葉1つできっと、なんだってしてくれるんだ。」


顔面蒼白になり恐怖にひきつった顔をする男に、俺は殊更優しく柔らかく見えるように微笑んだ。これでもう、男は俺に逆らう気は起きないだろう。俺の笑みは、状況によっては異常性と狂気を感じさせる代物らしい。失礼な、とも思うけど、活用しない手はない。

男はやはり、俺の思惑通りに口を開いた。


「お、れは……酉、の……若に、命、を……受けて……。な、何でもいいから……茶戸家が、こっちに手を出すように……って……。」

「それ、本当?」

「う、嘘じゃねぇ!」

「そ。景介、拘束解いて。怪我の手当て、病院連れてこっか。」

「はい。事前調査通りとはいえ、やはり江徒の人間でしたか。子垂や午法でなくよかったです。あれが絡むと面倒ですから。」


俺の指示に、景介はすぐ拘束を解き、気遣いながら体についている血を拭き始めた。一変した態度に、男は訝しげに俺と景介の顔を交互に見ている。


「……なん、の、真似だ……?」

「……あはっ。キミとキミの家族を、ウチで保護するよ。」

「……は?」

「キミを、ウチに引き抜こうと思ってるんだ。」

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