帰り道での奇襲
景介視点です
「あっはは。舞菜ちゃん面白い子だね。」
「えー、センパイ笑わないでくださいよぉ。」
彼女はその後も当然のように俺たちと歩調を合わせ、下校の道を辿った。
しかも普通に会話に参加してやがる……。
そのまま談笑し始めた姿を見て、俺は静かに肩を落とした。若がそれでこの時間を楽しいと感じてらっしゃるならいいが、にしても図々しすぎやしないか?
「水輿さんと親交があったんですね。」
「いや……俺はよくないって思ってるんだけど、ね。」
「……望まぬ交流、なんですか。まぁ、会長の事情もありますしね。」
「本当だよ。……でも彼女、その事情だって知ってるはずなんだし、何度も説明だってしてきたのにあれだ。……まじで意味不明。」
「知ってるんですか?!……なんで。」
駿弥くんにこれまでの経緯を簡単に話す。猫の手を借りてでも、どうにかしたい状況だ。打破する術を授けてほしい。
俺の説明を聞いた駿弥くんは、パチパチと瞬きを繰り返し、眉根を寄せた。
「……説得は無理じゃないですか?」
「諦めないでくれよ……。はぁ……危ない橋は渡りたくないのに……。これも俺の仕事なのか?」
「……お疲れさまです。」
同情の目で労ってくる駿弥くんを、思わず恨みがましい目で睨んでしまった。
まったく学生生活ままならない。若のためのみこの身を使い、組のためのみ働く。俺の時間はすべて若と組のために使いたかったのに、生徒会やら後輩やらに煩わされている。解せない。
「会長、何考え込んでるんですか?」
終わらない面倒事に頭を抱えていると、件の後輩から能天気な声をかけられた。
……”お前が原因だよ!”……って、言えたらすっきりするのに。今までの俺のキャラでは、女子相手に声を荒げてお前なんて言えない。なんてままならないんだ。
「……1人の後輩のせいでちょっとね。」
「えぇ?そんな問題児な後輩が?大変ですねぇ。」
「……。」
嫌味も通じない。まったくもって疲れる相手だ。
「はぁ……。昼も言ったけど、俺はもう会長じゃないよ。今の新しい会長にも失礼だから、間違えないでね。」
「あ!そうでした。先輩も大変ですね。」
「そう思ってくれるだけで重畳だよ……。貴斗。」
「うん。家で話そうね。」
心得たように笑って頷く若に、申し訳ない思いでいっぱいだ。また俺に関することでお手を煩わせてしまう。
内心落ち込んでいると、また水輿さんが横から口を出してきた。
「わぁ、先輩と茶戸センパイ、通じ合ってる感すごいですね。こーいうの、ツーヨーの仲って言うんですよね。」
「……それを言うなら、ツーカーじゃない?俺と貴斗は確かに通じ合ってるけど。」
信じられない言い間違いに、こちらもツーカーのことを言ってるのか不安になりながら指摘する。
これで別のことを言っていたら、俺普通に巻き込まれただけで大恥だな。
「え、カーですか?やだ、ずっとツーヨーだと思ってた。……ていうか、なんでツーとカー?」
「由来と言われてるのは色々あるよ。漢語にね、”通過の仲”ってのがあって、それがすべてを語らずとも分かり合える仲ってのを意味してるから、それから取ったんじゃないかって説もあるし、他にも色々。」
若の説明にを聞いてお嬢とともに感嘆の声をあげている水輿さんに、呆れてため息が漏れる。一般常識、とまでは言わないが、普通間違わないだろう。何だツーヨーって。
「じゃあ、舞菜ちゃん、またね。」
「はい!センパイ、また学校で。初音ちゃんも駿弥くんも、またね。」
水輿さんとの分かれ道に到達したらしく、水輿さんは少し残念そうにしながらも、笑顔で駆けていった。




