迷惑なアプローチ
景介視点です
「かーいちょ!」
「……また貴女ですか。」
「もー、嫌そうな顔しないでくださいよー。」
「はぁ……。私、もう会長ではありません。……そもそも、貴女との縁はとうに切れてるはずです。私と貴女は間違うことなき他人です。ではこれで。」
お嬢のクラスへと足早に向かった若を見送り、俺は貴重な昼休みを業務に当て、自習室でPCと向き合っていた。
6月中旬も過ぎ、ついに今年度の新生徒会長が決定した。つまり、俺はやっとあの煩わしい業務から離れることができたということだ。
これで心置きなく若の側に侍り、若の手となり足となり動けるというもの。さらに心を込めて若にお仕えしなければ。
そう思っていた俺に、まだ悩みの種が残っていた。この女子生徒だ。水輿舞菜。これまでにもあれだけ俺と関わることの危険性を説いてきたというのに、性懲りもなくまだ俺に絡んでくるこの後輩のことだ。
「他人だなんてひどいです!じゃーあ、センパイ!これならいいですよね?実際、私の先輩ですし。ね、先輩。今日なら放課後空いてますか?」
「今日も忙しいです。ていうか、何の用ですか?」
もうすぐ本格化するであろう抗争の準備で、空いてるどころか、睡眠さえ削っている状態なのだ。彼女に割く時間などあろうはずもない。
若干の睡眠不足と無意味な時間浪費にイライラしながら、俺は軽く睨んで彼女を見つめた。
「えぇ、用っていうかぁ……その、デート!誘いたいなぁ、なんて……。だめ、ですか?」
恥じらいの表情を見せながら彼女は期待するかのようなこちらを見ている。そんな姿に、俺はため息を漏らした。
「……前々から思ってましたけど、貴女、私のことが好きなんですか?」
「えぇ!?やだ、分かっちゃいました?」
「……はぁ……。」
「……え、ちょっと、なんですかその重いため息。やだー、ムードもないしトキメキもないですよ。やり直しを要求します!」
「わー、ウレシイナァー。」
「棒読みにも程がある……。」
がっくりと項垂れ、そう呟く彼女を無視し、俺は教室へと足を進めた。邪魔が入ったが、この昼休みだとて、やらねばならないことは山積しているのだ。彼女にかまけている暇など、一瞬たりともないのだ。
「あ、ちょっ……待ってくださいよかい……先輩!」
「忙しいので。」
昼休みは無理矢理振り切り、放課後。いつものように若、お嬢、駿弥くんとともに校門を潜り抜けると、また横から声をかけられた。
「会長!」
「……はぁ。貴斗、悪い。」
「オッケー。モテモテだね、景介。」
面白そうに声をたてて笑う若を前に、俺は再びため息が漏れる。無論、こんな馬鹿げたアプローチに若を巻き込んでしまった己の不甲斐なさにである。
「……水輿さん……。」
「舞菜でいいですよ!私もご一緒してもいいですか?」
「ダメと言っても来るなら、無駄なことは言わないよ。……頼むから、あまり騒がないで。目立ちたくないんだ。」
「分かりました!あ、茶戸センパイ、初音ちゃん駿弥くん。お邪魔しまーす。いつも一緒に帰ってるよね。」
ズケズケと若とお嬢にも話しかけていく彼女に、頭痛がしてくる。仲睦まじいお2人の姿が見えていないのか?なんでもいいが、お2人の邪魔だけはしてくれるなよ、頼むから!




