弟妹に説明を
貴斗視点です
「……なるほど?これは俺に喧嘩を売ってるってことでいいんだよね。」
「命知らずのバカの所業ですね。実行犯一名は捕らえてありますが、残り二名を取り逃したとのことです。こちらの被害ですが、1名が頭部打撲で重傷。現在病院で手術を行っています。他2名は擦り傷など軽傷はあるものの、問題はないようです。今、組員が報告を聞いております。」
学校から帰宅すると、俺の元にある報告が届いていた。
今日昼頃、うちの組員3人が何者かに襲撃を受けた。1人は重傷らしい。まだ詳細は出ていないものの、江徒の仕業だろうとのこと。
俺のシマ、茶戸の領土で襲撃するなんて、うちも舐められたもんだ。報復はもちろんのこと、今後向こうがこんなことをしようという気さえ起こさないように徹底的にやらなければ。
「景介、美南と孝汰呼んできて。ちょっと喝入れとかないと。景介は捕らえた奴のとこ回っていいよ。情報搾り取っといて。初音たちには今一度の警護強化。……駿弥くんにも一報入れなきゃね。それは俺が。茶戸家の警護リストに入ってる人たちは、優先度順に対策立てよう。」
「承知しました。お嬢様方をお呼びして参ります。」
「ん。……一応、親父に許可出しの準備させといて。」
「……はい。」
急ぎ出ていった景介を見送りながら、苛立った気持ちを抑えるために意識して長く息を吐いた。
とうとう始まってしまった。抗争が本格化するまではもう秒読み状態だ。余計なことしやがって。……あぁ、だめだ。まだ気が収まっていない。
俺が再度息を吐き気を鎮めていると、扉がノックされた。美南と孝汰が来たようだ。
「貴斗兄、入るわよ。」
「あぁ。」
「貴斗兄ちゃん、話って?」
「お前たちも聞いたな?昼のこと。」
「……うん。」
不安そうな表情を見せる弟妹たちに、俺は鋭い目を向ける。俺たちは、不安を表に出していい立場じゃない。上に立つ者が不安を出したら、下にも伝播する。もっと毅然とした態度を取ってほしい。
「いい?これからまもなく、抗争が始まる。そうなれば、親父はもちろん、若頭として俺も臨場しないといけない。その時、お前たちは後方支援の統括、警護対象者の安全確保をすることになる。」
「う、うん。分かってるよ。」
「今のうちに準備しといてね。これ、お前たちがやり易いようにマニュアルと引き継ぎ。今あるだけ全部あげるよ。これまでの記録とかあるから、読んどいて。」
これまでに書き留めておいた警護対象者に関するデータや、万が一の際の対処の仕方を書いたマニュアル書をドサドサと押し付け、手早く説明していく。
緊張した面持ちで話を聞く2人は、自分のやることをなんとか飲み込んだようだ。
「あの、貴斗兄……。」
「ん?何。」
「……ほんとに始まっちゃうの?」
「あぁ。もう始まってんの、前哨戦がね。……そんな不安そうな顔せずとも、俺たちが勝つに決まってんじゃん。俺と親父のこと信じてないの?」
「信じてる!父さんのことも貴斗兄ちゃんのことも。でも……。」
「いやよ……怖いわ。貴斗兄、本当に大丈夫なのよね?」
縋るように俺に目を向ける2人に、俺は笑って頷いた。
「当然。俺を誰だと思ってんの?必ず勝利してくるから。それに、本格化するまでまだ間が空く。それまでに準備を進めるから。」
「……戦争は始める前に勝敗が決まってるってこと?」
「そ。だからお前たちは、これに沿ってやってれば大丈夫。」
そう断言してやれば、2人はやっと安心したように肩の力を抜いた。
まったく、分かりやすい奴らだ。こんな様子では、到底こっちが安心できない。早く俺が安心して仕事を任せられるまでになってほしいもんだ。




