貴斗さんの印象
初音視点です
ユキちゃんの姿に勇気をもらい、私も引けていた腰を立たせ、背筋を伸ばした。
「こ、こんなたくさんで来られても、こ、困ります……!」
「ほんとにね。お前ら、迷惑考えろよな。」
また背後から安心できる声が聞こえ、私は安堵で振り返った。
「貴斗さん!」
「ごめんね、初音、ユキちゃん。ほら、後輩のクラスに何押しかけてるの。……ちょっと、え、本当に初音見るためだけに20人も来てるの?受験生余裕過ぎかよ。ありえないんだけど、暇なの?ほら、散った散った。」
貴斗さんの言葉に、みんなゾロゾロと帰っていく。
よかった、穏便に済んで。さすが貴斗さん。
「はぁ……あいつらにも困ったもんだね。初音、ユキちゃん、大丈夫?何もなかった?」
「はい。でも、ビックリしちゃいました。」
「そうだよね。ごめんね。櫛原って、クラスメイトの。あいつの話が広がってあることないこと言われてて。前々から初音に会わせろって言われてたんだけど、今回ので拍車がかかっちゃって。こっちですぐ対応するけど、またあるかもしれないから。そこでね……あ、いた。駿弥くん。」
貴斗さんがクラスの方を見回し、駿弥くんに声をかけると、みんなの視線が一斉に貴斗さんの見ている方へ集中した。
駿弥くんはそれを気にすることもなく、貴斗さんの方へ足を進めた。
「先パイ。……さっきの、ですか?」
「そう。あぁいった騒ぎがあったときは、初音のこと頼んだよ。俺とか景介の名前も、バンバン使っていいから、よろしく。」
駿弥くんが貴斗さんの言葉に頷いた。貴斗さんの代わりに、何かあったときに対応してくれるということだ。
貴斗さんと駿弥くんが普通に話しているのを見て、クラスの中はざわりとなった。
「え、藍峰くんあんた、茶戸先輩と知り合いなの?」
「あぁ。ここに来たときから。」
「えぇ!?何のつながり……初音?初音が?」
「あ、ううん。たまたまね。畑本先生が案内してるときに貴斗さんと会ったの。」
あのときは3人がいきなり難しい話を始めたから、ビックリしたなぁ。
私が思い出してクスリと笑うと、貴斗さんが話しかけてきた。
「初音?」
「あ、いえ。ふふっ。あのときのこと思い出して。今は私も、難しい話だって、少しは分かるようになりましたよね。」
「もちろんだよ。初音、すごく頑張ってたもんね。」
貴斗さんがいつものように優しく笑いかけ、私を褒めてくれる。私も、それに笑みを返した。
それを見たクラスメートが、なぜか呆然としている。何かおかしなことでもあっただろうか。
「……あの噂って、あながち嘘でもねぇんだな。」
「噂って……あぁ、あれか。少なくとも、的外れなものはなかったよ。好き勝手言ってくれてるけどね。別に咎めたりはしないけど、広めないでくれると嬉しいな。こうやって迷惑かけたい訳じゃないからね。」
「あえ!?あ、わ、分かりました!」
貴斗さんがクラスメートの呟きに返すと、その男子は驚きながらも頷いた。それを見て貴斗さんはクスクスと笑っている。
「……茶戸先輩の印象変わるわね。あれを見てるから、いい人とか言ってるのね。」
「そうだよ。怖くないでしょ?」
「ま、まだ分からないよ!これからも見極めるんだからね。」
「はいはい。」
「じゃ、初音。俺行くね。もしまた来たらすぐに言ってね。こってり絞っておくから。」
「はい。分かりました。」
貴斗さんが去って、クラスメートは貴斗さんのことを話ながら中へ戻っていく。
これで貴斗さんがいい人だって、怖くないって広まってくれるといいんだけどな。
次話から駿弥視点が始まります




