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プロローグ

~8年前~


「ひぐっ……、うぅ……。」


転んで擦りむいた膝を抱え、私は泣きながら目の前の2人の男の子に必死に手を伸ばした。膝はヒリヒリするし、痛くて悲しいけれど、男の子の持っている人形を取り返さなければ、と震える体を動かした。


「かえして!かえしてよ、私のお人形!」

「悔しかったら取り返してみろよ、へへっ。」


2人の男の子の間で投げられている人形は、もう砂にまみれ汚れている。お母さんに買ってもらった大切な人形の変わり果てた姿に、また涙が溢れてくる。

私が堪えきれなくなった涙を拭っていると、突然男の子たちは動きを止めた。


「おい、なんだよお前!離せよ!」


その声にそろりと顔をあげると、いつの間に現れたのか、もう1人男の子がいた。人形を持っている男の子の肩を掴み、この場にそぐわないほどの笑みを浮かべている。

驚いて目を離せないでいると、肩を捕まれた男の子の顔がだんだん歪んできた。すごい力で捕まれているらしい。すぐに喚くように痛みを訴え始めた。


「いた……っ、いたい!離せ!」

「あはは、楽しそーなことしてるね、君たち。女の子1人に男2人がかりで。ふふっ、かっこわるーい。」


男の子は臆することなくそんなことを言って2人を挑発していく。かっこわるいとまで言われた2人は、顔を真っ赤にして怒りだした。


「てめぇ……ふざけんなよ!」

「あ……っ!」


1人の男の子が殴りかかったとき、私は思わず両手で目を覆った。いくらなんでも殴られたら痛い。見てるだけでも。

しかし、痛そうな声も音も聞こえてこない。

恐る恐る目を開け、そちらを見てみると、先ほどと変わらない、ニコニコした笑みのまま、向けられた拳を手で受け止めている男の子が見えた。


「えー?これが君の本気?遅いなぁ、ハエも止まっちゃうよ。ははっ、次は俺の番だね。歯、食い縛って。大丈夫、骨は折らないようにするから。」


そう言った男の子は、容赦のない動きで相手を殴り付けた。


「うぐぅっ……。」

「ほらぁ、早く逃げないと顔腫れちゃうよ?」


笑いながら次々と拳を繰り出す男の子に、私は縮こまって見ているしかなかった。

2人の男の子が2回ずつ顔を殴られ、公園を飛び出していくと、男の子はゆっくりと私の方へと近づいてきた。次は私に何かするのかもしれない。私は、震えながら男の子へ向けた目を離せなかった。

男の子は、そんな私の様子に構うことなく近づいてくると、土で汚れた人形を拾って私へと声をかけた。


「ねぇ、キミ。」

「!な、なんですか?」


緊張と恐怖で震えた私の声に、男の子は膝を折って私と目線を合わせると、にっこりと笑った。私には、それがさっきまでの笑みとは違い、少し柔らかいものに思えた。


「ふふっ、そんな怖がんないでよ。キミを取って食ったりしないからさ。キミに何かするつもりはないよ。これ、キミの?」

「う、うん……、私の、お人形……。」


怯える私を宥めながら人形に付いた土を払う男の子に、私は強張っていた体を少し緩めた。この人は、私にひどいことをしないだろう、と思うことができる。


「そっか、ごめんね。汚れちゃってる。もっと早く助けに入れたらよかったかな。」


眉を八の字に歪め、優しく私を見る男の子は、私のピンチを救ってくれたヒーローだ。私は次第に身を乗り出すようにして、キラキラと目を輝かせて男の子を見つめた。


「お兄ちゃん、ありがと!助けてくれて!」

「え?」

「お兄ちゃんは、私のヒーローだよ!」

「俺が……ヒーロー?」


すごいすごいとはしゃぐ私に、男の子はキョトンとしている。


「うん!すごくかっこよかったよ。お兄ちゃん、強くて優しい私のヒーロー!ありがとう、お兄ちゃん。……あ、お礼!ね、お兄ちゃん、お礼!」

「え、あ……別に、お礼なんていいよ。そんな大したことしてないし。」


優しく、でも困ったように笑う男の子に、私はムキになって、やだやだ、とお兄ちゃんの腕を引いた。

お母さんにも、何かしてもらったらお礼をしなさいと言われている。使命感から、必ずお礼をしなくては、と強く感じた。


「だめ、お礼する!」

「えぇ……んー、いーんだけどなぁ……。あ、じゃあこうしよう。手、出して。」

「?……あ、これ……。」


両手を差し出すと、男の子は私の左手を取り、手首にブレスレットを巻いた。それまで男の子が左手に着けていたものだ。

不思議な顔をしていたんだろう。男の子の顔を見つめていると、男の子は優しく私の手を握って目を見ながら話し始めた。


「これね、俺の大事なブレスレットなんだ。キミに預けるよ。もう1つ、これとペアのネックレスを俺が持ってるから。目印にして。次会ったら、お礼、して。」

「わぁ……うん!分かった。」


男の子が首元から見せる、ブレスレットと同じデザインのネックレスをしっかりと見つめ、忘れないように目に焼き付ける。

これが、私と男の子の約束の証だ。


「じゃあ、約束ね!」

「あ、待って!約束、なら、名前聞いてもいい?」

「私の?うん。私は初音。宇咲初音だよ。」


元気よく名前を言って男の子を見ると、なぜか驚いた顔をしている。

私、何か変なことしたかな。

そんな疑問を他所に、男の子は私の名前をブツブツ口にした。


「はつね……初音、初音……。初音ね。うん、分かった。」

「ねぇ、お兄ちゃんの名前は?」

「俺、の?……俺の、名前は……」


以前からノートに書いていたものを初めてネットに掲載してみることにしました。

初めてのことが多く、不慣れなところもあると思いますが、楽しんでいただけましたら幸いです。

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