97話 PKK
「う、うそ……だろ?」
男は愕然としつつリルを見つめる。
するとリルはスキルの効果の時間がちょうど切れ……元の姿へと戻っていく。
「な!?」
相手はリルの変化を見逃さないように目を凝らすが……そこはスキルの効果で光り、そしてぼやけており見えなかっただろうとリルは考える。
何故ならリル自身もまわりが見えなかったからだ。
「…………」
リルが再び周りの景色を見た時には男の姿はなかった。
「ふぅ……」
どうやらPTメンバーが同じフロアに居ない場合は強制転移させられるみたいだ。
その仕様に感謝しつつリルはベールの元へと向かうべく歩き始める。
マップを確認するとリルの願い通りベールは真っ直ぐ進んでいたのだが……。
「……分かれ道で止まってる?」
その先にある分かれ道の所で止まっているようだ。
鉱山というだけあって道が一つだけではなかった。
だからこそ、彼女は何処に進めばいいのか分からなくなったのだろう。
そこまで行くとベールは足音に気がつき怯えた顔でリルの方へと目を向けてきた。
相手がリルだとわかるとすぐにうれしそうな顔をしたのだが、少し遅れて怒ったような表情を浮かべ――。
「……むぅ~」
「いや、リアルでむぅーって言う人初めて見たけど」
リルは彼女の反応に思わず苦笑いを浮かべる。
しかし、あの状況では仕方がなかったのだ。
「ごめん、前作でもさ……決闘とか含めてプレイヤーと戦って負けると装備とか落ちちゃうんだよ」
「そ、そうだとしても酷いよ!」
たとえ一人でもベールであればこのダンジョンは余裕だろうと考えての判断だった。
しかし、彼女はネットゲームどころかゲームですらあまりやったことがなかったのだ。
一人にされて不安がないはずがなかった。
「暗いし……お化けが出るかと思ったんだからね!」
「……ああ」
モンスターでもなく、PKでもなく、彼女が怖がったものが幽霊だと知り、リルは思わず苦笑いを浮かべる。
するとベールは眉を吊り上げ頬を膨らませる。
怒っているのだろうが、どこか可愛らしくも見え――。
「……クス」
リルは思わず少し笑ってしまった。
するとベールは「酷い!」と怒るが、少しして彼女もまた笑いはじめ――。
洞窟の中には二人の少女の笑い声がこだまする。
「そろそろ戻ろうか」
ひとしきり笑ったところでリルはベールへとそう告げる。
「うん!」
笑顔で頷く彼女を見てほっとしたしつつリルはあることに気がつく。
そう言えば先ほど倒したプレイヤーからなにかがドロップしたのだ。
一体なんだろう? そう思いインベントリを操作すると……。
「どうしたの?」
リルのインベントリを覗き込もうとベールは横に並ぶ。
「装備みたい……これさっきの悲鳴の人の装備じゃないかな?」
「それじゃ返してあげた方がいいよね?」
ベールの言葉にリルは目を丸めた。
これはリルが奪ったものではない。
あの男が奪ったものだ……。
だからこそ返す必要もない物だと考えていた。
名前が書いてあるわけでもないからだ。
「返さないの?」
不安そうにリルを見つめるベールの視線に慌てた彼女は――。
ぶんぶんと首を振り。
「ううん、返そう?」
純粋な彼女に関心と尊敬を感じた彼女はようやく頷くとそう返事を返す。
「そうだね、ちゃんと返さないとだめだよ」
少し眉を吊り上げたベールは小さな子供をたしなめるようにそう口にする。
だが、問題があるのだ。
「どうやって探すかだよね……」
「襲われた人ー! って言えばいいんじゃ?」
それはそうだのだ。
しかし……。
「さっきの人……倒しちゃったから……バレると、その……困る」
先ほど倒したのはスキルによる効果も大きい。
正体がばれずに済んだのもそのおかげだ。
しかし……落とした人を見つけようとすれば当然バレてしまうだろう。
「うーん……とにかく一度戻ろ」
返す方法はどうにかして考えるしかない。
そう判断したリルはベールへと一旦戻ることを再度提案するのだった。




