90話 店番
「これ良いですか?」
「あ……はい!」
リルとベールはそれぞれお客の対処をしており……。
一人終わるとその後ろに居る客の多さにがっくりと項垂れそうになったのをこらえ……。
「あははは……おわらない」
時刻は20時、社会人も増えてきたこの時間では客も増えてくるのだ。
だからと言ってここまで忙しいとは思わなかったのだ。
「ねぇ、フレンドにならないかい?」
この店の店主であるシィは可愛らしい少女のアバターだ。
それだけでも客が集まってくるのだ。
それに加え美少女二人が並んで店番をしていると聞けば客も増え……。
こういった人もいるだろう。
「……お買い上げありがとうございます」
むすっとしたベールは笑みを浮かべると――。
「お帰りはあちらですよ」
「あ、いや……フレンド」
リルは彼に対し何も言えず、それどころか少し震えていたのだ。
あの騎士を思い出したのだろう。
「お帰りは……あちらですよ?」
少しどころではなく、不機嫌な様子のベールは――リルの目の前に出てきたウィンドウを確認すると彼女の手を取り、通報のへと近づけ。
にっこりと笑みを浮かべる――。
「あ、ナンデモナイデス」
片言になった男性はそそくさと店を去り……。
それを見ていた女性の客はいい気味だとばかりに鼻を鳴らした。
「この武器欲しいんだけど」
そう言ってベールの方のカウンターへと来た女性。
彼女の声にリルはハッと顔を上げた。
「ハルちゃ……」
そう、邪神のささやきに入ったハルだった。
彼女は悪戯っぽく笑みを浮かべると――。
「あーリルぅ……元気?」
たった一日。
まだショックから立ち直れるわけではない。
彼女を見て目を泳がせるリル。
それに対しベールは前へと割り込むと――。
「あの、お買い上げ、ですよね?」
「あーうん、そうだねー」
ニヤリと笑みを浮かべたハルは装備を選択し――リルは慌ててベールの手を止める。
邪神のささやきというレッドに入っているから警戒することに越したことはないと考えたのだ。
「あれ? お客に装備売らないの?」
「……そもそも必要なの?」
「いやぁ……だって、ここのってシィのでしょ? たいして良い武器じゃないしー自分とこの鍛冶師と比べるだけだから」
はいして良い武器ではない、この店の人気や装備を見ればそんなことはないのが分かる。
つまりは何らかの手段でシィを貶めるつもりなのだ。
それに気がついたリルは――。
「なら、売れない……拒否する権利がショップ側にはあるよ」
リルがそう言うと彼女は笑い始め――。
「へぇ……ここの店員は――」
「私の独断、ベールは売ろうとしたし、私自身の勝手な判断だよ」
声は震えていた。
しかし、しっかりとそう言い切る。
「へぇ……そんな詭弁が通るとでも思ってるのかな?」
「なにー? 問題?」
声を荒げていたわけではないが、騒ぎが聞こえてきたのだろう。
作業部屋から出てきたシィはハルへと目を向ける。
すると――。
「…………」
隠すことなく嫌な顔をした。
恐らくはレッドギルドだと知っているのだろう。
「入らないけど」
いや、かつて勧誘されたというのが今の一言で分かったのだ。
するとハルは笑い始め――。
「いやーもういらないけど?」
「じゃぁ、帰って……」
彼女の言葉に目を細めたハルはくすくすと笑い始め――その場を去る。
ほっとしつつも、リルはシィへと心配そうな瞳を向けるのだった。




