87話 新しい服
「こんにちは」
扉を開けたリルは中に居るであろうシィへと声をかける。
「返事ないね?」
だが、すぐに返事が返ってくることはなく……。
「いないんじゃ?」
ベールはそう口にした。
確かにその可能性はあるのだ。
このゲームはしっかりしている。
つまり、プレイヤーが不在でもプレイヤーホームにあるものを盗むことはできない。
だが、ルームに立ち入ることはできる。
主な理由はメッセージを残しておいたり、アイテムを落としていくテロ行為ともいえる遊びが主な目的だ。
「居ないならメッセージを残しておこうか」
「うん」
リルの提案にベールは頷く。
そして、リルはメモを取り出すと――。
「お客さん?」
声が聞こえ奥からシィが出てきた。
どうやら作業をしていたようだ。
「あー君たちはたしか……」
昨日の都付け加えながら大きなあくびをした彼女は眠そうに目を擦る。
そして――。
「何の用? って聞くのは野暮だよね」
彼女はそう言うとインベントリを操作し、服を取り出す。
そして、それをベールへと差し出し……。
「ほら、新しい装備……」
「み、短すぎませんか?」
もう作られていたことに驚いていた彼女だが、わくわくとしながら手に取った服は彼女の要望とは別でスカートが短かった。
だから少し文句を言うような口調で言ってしまったのだが……。
「あーそう言われると思ってもう一着作っておいたんだよね」
そう言うと新たな服を取り出す。
ベールはほっとしたような表情を浮かべそれを手に取ると――。
「わぁ……」
新たな装備を見て思わず声を漏らす。
それもそうだろう、派手過ぎず、スカートは長く、足首ぐらいまであるものだ。
ワンピース上のその服は現実でも着れそうなぐらいの出来だった。
「私こういうの好き!」
ベールはそれが気に入ったのだろう。
そう言うと笑みを浮かべご満悦の様子だ。
「あーでも、それまだ何の効果もないから」
「……え?」
思ってもみないことを言われリルは驚く。
するとシィは二ヘラと笑い。
「このゲームって面白いんだよー先に装備の見た目を作って効果を付加すんの、だから出来た装備が見た目が好きくないーっていうのがなくなるんだよね」
「じゃぁ、このまま強化できるってこと?」
うんうんと頷く彼女の姿を見てベールは嬉しそうに笑みを浮かべる。
それもそうだろう。
「えへへ……じゃぁ、これでお願いします」
「分かった、じゃーそれでつくるね」
「良かったねベール」
ベールはリルの言葉に「うん!」と首を縦に振り「えへへ」と笑う。
後は出来上がりを待つだけだ。
そう思ったのだが……。
「後は……靴と、頭、頭はアクセサリー系が良いかな?」
彼女はそう言うと再びインベントリからアイテムを取り出し。
「「わぁ……!」」
二人はそれを見て目を輝かせる。
どれも素敵なデザインなのだ。
「シィさんってデザイナーさんか何かですか?」
ベールはそう尋ねるとシィは二ヘラと笑い。
「そんなわけないよ、で、どれがいい?」
「えーと……」
ベールは迷いながらも装備の見た目を決め。
リルもまたそれを一つ一つ見ては楽しんでいた。
「ほしいかい?」
「いや、お金ないから……」
溜めたら絶対に買おう。
そう思いつつ、リルはいったん断り――。
「じゃぁ、これとこれ!」
ベールは装備を手に取りそう言うとシィはうんうんと頷くとそれを手に取り――。
「じゃぁ、しばらく待ってねー」
「はい!」
笑みを浮かべ嬉しそうな顔をするベールを見て今日はまず最初にここに来てよかったとリルは思い。
もう一つの目的を済ませるためにシィへと目を向ける。
「んー?」
「あの、ギルド……に入りませんか?」
そう、リルは彼女を勧誘しようと考えていたのだ。




