85話 日常とベールの目標
放課後二人は近場の喫茶店へ向かい、席へとつく。
「それで、よかったの?」
冬乃は鈴へと問う。
冬乃も友人がいないわけではない。
しかし、それだとしても二人の友人の数には差がある。
「うん! ゲームの事色々聞きたかったの」
「別にゲームの中でもいいと思うけど」
少し笑みを浮かべながら持ってこられたケーキへとフォークをいれようとして冬乃は手を止める。
「どうしたの?」
「いや、こっちだとカロリー考えないとなぁ……って」
そうVRゲームの中では特に気にしなくてもいいが現実は違う。
「あっちでも美味しいの沢山あったもんね……」
鈴も思い出したのだろう。
苦笑いをしつつ――フォークを差し、ゆっくりと口へと運ぶ。
「それで、聞きたい事って?」
「んっと結局一体何をすればいいの?」
彼女の質問に冬乃は首を傾げる。
何をすればいい? その質問に対し返事を返すことはできなかった。
何故なら――。
「好きなことをすればいいと思うよ」
そう、結局はそこに繋がるのだ。
ネットゲームにはゲーム自体のクリアという目標がない。
ストーリーはあるものもあるがあくまでステージ開放などに使われていたりする。
だからこそ……。
好きな事が出来るのだ。
「……うーん? そう言われても」
鈴は困っている様子だ。
それを放っておけるわけもない。
「とりあえずゲーム一番の召喚士を目指すとかどうかな?」
冬乃はそう伝えると彼女は少し考え――。
「ゲーム一番の召喚士……」
「そうそう」
「そうだ!」
鈴は顔を上げ、冬乃の方へと目を向け――。
「私可愛い召喚を覚える!」
「う、うん、それも良いと思う、よ?」
「そうと決めたら今日もやろ?」
「そうだね、うん……じゃぁ帰ろうか?」
ケーキを口へと運び――。
「うん、おいしい!」
「えへへ、でしょ? おすすめなんだよ?」
鈴は笑みを浮かべ、そう口にするのだった。
冬乃は鈴と駅で別れると家へと向かう。
目的は勿論ゲームへのログインだ。
「……だ、大丈夫だよね」
ただそれだけなのに不安を感じてしまった。
理由は鈴だ。
流石に家までの距離で迷うことはない。
そう言っていた。
だが、予想外の事が起きてしまえば彼女はすぐに迷子になってしまうのだ。
それを知った冬乃は一人、悶々としながら帰宅する。
部屋へと戻ると早速VRギアを装着したいと思ったが、すぐに鈴へと連絡を取る。
返事がすぐに来て無事家についたことを知らせてくれたことにほっとした彼女はようやくVRギアをかぶりゲームを起動する。
視界が首都の風景に切り替わるとリルはすぐにウィンドウを操作する。
彼女に少し遅れてベールがログインしたことを告げられ、目の前に彼女の姿が現れた。
「良かった」
リルは心の底からそんな声が出て、ベールは首を傾げていた。
それもそうだろう。
「いや、うん……寝過ごしてないかなって」
「も、もう!」
ベールは顔を赤くしながら怒って見せるが、本当に怒っているわけではないようだ。
「それで今日は何をするの?」
その証拠にベールはそう言うとリルは腕を組み考える。
しかし、すぐに何かを思いついたように笑みを浮かべ――。
「シィさんの所にいこうか」
そう提案するのだった。




