81話 キャッスリング
本来単体に効果を発揮するビューレイストという連撃スキル。
しかし、決して単体限定というわけではない。
だが、一匹倒して次の敵へと目標を変えるのは容易な技ではない。
「くぅ!」
リルは歯をギリリと音が鳴りそうなぐらい噛み締め、無理やり攻撃を捻じ曲げ――。
一匹、また一匹と数を減らしていく。
しかし、ベールの魔法とリルのビューレイストでは処理できる数が違う。
このままではだめだ。
そう思ったリルは罠を取り出し――。
「高速設置!!」
たった一回しか使えない罠を使い空へと舞う。
そして、武器を切り替え地面へと向け、無数の矢を放つ。
今度はしっかりと数を減らし……。
「……女の子に言うべきじゃないと思うけど、化け物じみたPSだね」
トートはひきつった笑みを浮かべつつウィンドウを操作する。
悠長に見えるが彼自身、決してゆっくりとしているわけではない。
砂漠の王がベールに迫っていたからだ。
そして――それに対し声を発したのはトートだった。
「クロネコ!! ベールちゃんの所に急いで!」
「え? あ……分かった!!」
一瞬クロネコはキョトンとしていたが、ウィンドウを操作する彼の意図に気がつきベールの元へとたどり着く。
彼女のAGIなら容易に砂漠の王を抜く事が出来るのだ。
「キャッスリング!!」
そして、それを見届けたトートはスキルを使用し……。
先ほどクロネコがいた場所へと移動をする。
同時にトートがいた場所へとクロネコが現れた。
そう、二人の位置は入れ替わったのだ。
「二人のお陰で狼の経験値はたっぷりと貰ったからね、装備だけじゃない……!」
彼はそう言うと盾を構え――。
砂漠の王の攻撃を受け止める。
そして――。
「うん、流石はシィの防具、しっかりと軽減スキルもついてるからダメージはゼロだ!」
そう口にし、笑みを浮かべた。
「……いや、あんたも十分化け物じゃない?」
それを見ていたクロネコはそうつぶやき顔を引きつらせる。
「でも、これで防御は完璧ね……私の支援と合わさればあの程度のボスなら……」
「楽勝だね」
カナリアとリルも笑みを浮かべそう口にし、ベールの方へと目を向ける。
すると彼女はその表情を明るくし――。
「蛇、使えるみたいだよ!」
「次に雑魚が召喚されたらもう一回お願いね」
リルはそう言うが、すぐに叩き込んだ連撃とベールとカナリアのファイアボールの嵐、そして鉄壁のトート前には成す術もなく砂漠の王は倒れるのだった。
「…………何もしてなくない?」
クロネコはそう言うが――。
「いや、クロネコがいてくれなければベールが倒れてたよ、ありがとう!」
リルはそう答えた。
事実、あの距離から間に合うのは彼女ぐらいのものだった。
そして――リルはもう一つ伝えたいことがあったのだ。
「今度は転んだり、ぶつかりそうにならなかったよね、ちゃんとベールの前で止まれてたよ」
「……あ」
その事に気がついたのだろう、クロネコは目を丸め顔を赤らめたところですぐに横を向き……。
「ぐ、偶然だよ偶然!」
と答える。
その様子は褒められて素直に喜べない子供のようでもあった。
だが、そんな彼女の様子とトートを交互に見てリルは腕を組み考える。
二人の相性がいいのだ。
いやむしろ、ギルドの攻防戦が始まれば彼の能力とクロネコの速さは強みになるだろう。
「…………正直に言うと欲しいわね」
そんなリルの考えを見透かしたかのようにカナリアは呟く。
それに対し、リルはしっかりと頷いた。
「え?」
トートは驚いた表情を浮かべ、リルたちを見てくるが……どうやら自覚はないようだ。
「トートさんの防御力とクロネコの速さは強みだなぁって思ったの」
そして、そう伝えると彼は困ったような笑みを浮かべ――。
「でも、手伝ってもらっただけじゃなくてギルドまで入れてもらうなんて……それに――」
「それに? 何かダメな理由がある? もしかしてシィさんとギルドを作るとか……」
リルが訪ねると彼はまさかと首を振る。
それならとリルは笑みを浮かべ――。
「ああ、こうなったら強制加入だ……」
クロネコは苦笑いを浮かべるのだった。




