80話 砂漠の王
リルはゆっくりと呼吸をし、しっかりと敵を睨む。
そして――。
「ベール、お願い!」
「うん! フヴェルゲルミル!」
ベールは杖をしっかりと構え、魔法を唱える。
すると大量の蛇が召喚され、それは瞬く間に砂漠狼を飲み込んでいく。
突然の攻撃に魔物のAIが追い付かなかったのだろう、強襲は成功した。
だが、当然の様に生き残った大きな狼は遠吠えをするとベールへと向け近づいてくる。
対し、リルは弓を構え――。
「ファールバウティ!!」
矢を放つ。
その矢は惜しくも外れてしまった。
しかし、その矢は軌道を変え再び砂漠狼へと向かっていき、その身を貫いた。
「……なに、あれ……」
クロネコは初めて見るそれにあっけにとられている。
いや、トートもぽかんとしていた。
しかし一人カナリアは困ったように笑みを浮かべ……。
「ただの強装備じゃないとは思ってたけど、とんでもないスキルがあったわけね」
「……まだ、あるけどね」
リルはそう言うが笑みを浮かべるだけで残されたスキルは使う気はないようだ。
それもそうだろう。
トートはギルドの仲間ではない。
当然、スキルを隠しておくに越したことはないのだ。
「リルちゃん、来るよ!」
狼がリルへと目を向け接近したことを知らされ、即座にそちらを睨む。
HPは8割まで減っており、名前を確認することもできた。
「砂漠の王……」
恐らくそれが名前なのだろう。
巨大な狼の突進からの噛みつきを身をひねり回避をしたリルは装備をフェンリルへと変え今度は自分からその凶刃をふるう。
しかし、狼とだけあり、素早さが高くとらえることはできなかった。
「め、面倒ね」
そう呟くのはカナリアだ。
今回彼女は直接魔法で戦うわけではなかったが、魔法も物理も当てなければ意味がない。
そして、その天敵とも言えるのがAGIが高い魔物なのだ。
「硬いのはそれはそれで面倒だけどね……」
クロネコはうんざりしたように呟くが、同時にリルと狼の攻防に見とれていた。
どちらも譲る事のない戦い方だった。
決定打になる攻撃は当たらず、ダメージを削ることはできない。
いや、離れる事が出来れば先ほどの矢を放つことの出来るリルの方が優勢だと言ってもいいのかもしれない。
しかし、現状は狙われているため、それは難しかった。
だが……。
「攻撃に合わせて、避けたところに集中攻撃お願い!」
リルはそう言うとフェンリルをしっかりと握り、スキルの名を叫ぶ。
「連撃!!」
すると狼はそのスキルから逃げるように飛びのき――。
「「ファイアボール!!」」
魔法の餌食となった。
二人分の魔法をもろに受けた砂漠の王はそのHPをどんどんと減らしていき……5割にまで減る。
これなら楽勝だ……。
そうリルが確信した時だ。
『オォォォォォォォォォォォォ!!』
砂漠の王は遠吠えをし……そこには数多くの砂漠狼が再び姿を現す。
「うそ、でしょ……」
迫りくる狼を避けつつもリルは愕然とする。
それもそうだ。
いくらリルでもこのままでは押し負けてしまう。
「ベールもう一度蛇をお願い」
そう言うも――。
「フヴェルゲルミル!」
彼女がそう叫びながら口にしても魔法は発動しない。
「あ、あれ? あれ?」
戸惑うベールの声を聞きリルはギリリと歯ぎしりを立てた。
強力なスキルだ。
クールタイムがないわけがなかったのだ。
「うかつだった……」
リルはそうつぶやきながらフェンリルを握り締め――。
「ビューレイスト!!」
スキルを発動させるのだった。




