75話 トートのレベル上げ
トートと呼ばれた青年は困惑の表情でリルたちを見つめる。
「いや、悪いよ……」
「うーんでも交換条件だし……」
ベールの装備を作ってくれる条件。
それが彼のレベリングだ。
といっても、リルたちにデメリットがあるわけではないのだ。
「それにお兄さんには良い情報貰ったし」
まだ転職をしたわけではない。
だが、有力な情報であることでは間違いない。
「どんな情報なの?」
ベールは気になったのだろう。
リルの顔を覗き込むようにして質問をしてきた。
別に隠すこともないリルは彼女へと二刀流の事を伝えると……。
「なるほど、確かにそれはリル向きね……」
カナリアは腕を組み頷く。
「それ以上強くなってどうするつもり?」
クロネコはやや呆れた様子ではあった。
しかし、どこか諦めたような表情でもあり……。
「まぁ、仲間が強くなるならいいけどね」
彼女はそう言うとトートへと目を向け。
「まぁ、諦めたらいいんじゃないかい? トート」
「諦めたらってクロネコ、俺は――」
彼の名前を親し気に呼ぶ様子から恐らくは知り合いなのだろう。
「……どうせ自分一人でレベリングしたいとか言うんでしょ? ソロが好きなのは知ってるけどねつもりだけどね」
彼女はそう言うとふっと笑う。
対し図星をつかれたからだろうトートは少し後ろへと下がり……。
「いや……その」
「トート……またステ振りミスっても知らないよー」
今度はシィの指摘にぎくりと体を震わせるトート。
その様子を見ていたリルたちはあははと笑う。
どうやら彼は二人の少女に弱いようだ。
「分かった、また作り直すのは勘弁だ」
ようやく折れたトートはリルたちへと向け頭を下げる。
そして――。
「すまない手伝ってもらえないか?」
「勿論、そのつもりだよ」
リルはそう言うとクロネコへと目を向ける。
狩場の情報ならば彼女に聞いたほうが良いだろうと判断したからだ。
「クロネコ、いい狩場はない?」
「んーゴブリンとかはありきたりだしね……」
「ゴブリンはもう見たくないかなー?」
ゴブリンという言葉を聞き拒否をしたのはベールだった。
それもそうだろう、たったの三日でゴブリンをさんざん見たのだ。
流石に嫌だと言われても仕方がないとリルも考えていた。
それに――。
「カナさんもいるし、それなりの場所に行っても大丈夫だと思うけど……」
「なら砂漠狼なんてどうだい? 素早いけどリルなら……」
「早いんだ、それならクロネコの練習にもなるね」
笑みを浮かべるリルに対しクロネコはしまったっという顔を浮かべてはいた。
だが、リルはそんな表情に気がつきつつも笑みを浮かべる。
何故ならクロネコが思ったよりも早く成長しているからだ。
だからこそリルは笑みを絶やさず――。
「それじゃ砂漠狼の所に行こう!」
と仲間とトートへと告げる。
「じゃぁ、装備は作っておくから戻ったら寄ってね」
シィはそう言うと金槌を取り出し、空いた手でひらひらと手を振った。
「分かりました」
リルはそれだけを伝え、店を後にする。
目指すは砂漠狼という魔物がいるところだ。
名前からしてどこにいるかは大体見当がつく。
しかし……。
「ところで砂漠ってどこ?」
見当がついたからと言ってもリルはまだワールドマップをすべて把握しているわけではない。
クロネコへと尋ねると彼女はふふんと鼻を鳴らし――。
「飛空艇で行くんだ」
そう答えるのだった。




