74話 新たな出会い
リル達はシィと呼ばれた女性にここまで来た理由を告げる。
すると彼女は――。
「へぇ、その子の新しい装備、ねぇ」
じっとベールを見つめる彼女は面白い物を見つけたという表情だ。
そして――。
「いいよ、作ってあげる。ただし――」
にやりと笑みを浮かべた彼女は――。
リルたちに近づくとピッと指を立てる。
「条件? アイテムを集めてくるとか?」
「そんな良いよ、っていうか、こんだけお金があれば買ったって十分だよ」
彼女は無表情で器用に笑って見せる。
棒読みではあったがどこか可愛らしい笑顔だった。
「実はさー友達がね、キャラ消してねどうやらタンクをしたいらしいんだ」
「……あーレベリングってこと?」
リルはそう尋ねると彼女は頷く。
また修羅の道を選んだものだなーっとリルは考える。
何故ならタンクというのは肉壁とも呼ばれるPTの盾役だ。
しかし、育てるのはかなりつらい。
しかも――。
「装備自体は前の装備を売って依頼を受けたんだけどねー、装備だけじゃ」
「あー人に頼むってことは……つまり極振りって事ね、それは辛いわね」
カナリアも思わず苦笑いだ。
作り直したという事は前のキャラが使いにくいか、ビルドを間違えたという事だろう。
だが……それで極振りを選ぶのはどうなんだろうか?
「それがそろそろ来る予定だからね……その、ちょこーっとでいいんで手伝ってくれない?」
「それでいいならいいけど……」
だが、問題はあるのだ……。
「公平ってどうなの?」
リルはカナリアに尋ねてみる。
公平とは経験値の分配の事だ。
ベールとはレベルが近かったことから問題はないだろう。
だが、薄々感じていた事ではあったが、二人よりもはるかに高いであろうカナリアとクロネコには経験値が入っていないのではないか?
という不安があった。
ギルドを作ったことでちゃんと聞こうと思ってはいたのだが、リルは尋ねるのが遅くなったことを申し訳なく感じていた。
すると――。
「あー問題ないよ、PTに入ってればちゃんと分配される……互いの距離が離れすぎていたりしなければだけどね」
クロネコはそういうと微笑んで見せた。
彼女のいう事だ嘘ではないだろう。
「なら、私たちが倒せば良いんだね」
リルはほっとしつつ、シィへと向き直ると――。
「分かった、その条件受けるよ」
「良かったー、実はその友人には恩があってね、クロネコ同様レベル上げに手伝ってもらってたんだ」
表情は変わらない。
だが、喜んではいるようだ。
彼女の言葉にリルは頷き――。
「あれ?」
男性の声に思わず振り返る。
騎士の事で恐怖を植え付けられたからだろう、恐る恐ると振り返ると――。
「あれ? キャラ消したんじゃ?」
「なんか同じアバターに当たったみたいだ」
そこに居たのはリルにおすすめスキルを教えてくれた細目の青年だ。
彼はリルへと近づくと――。
「もしかして、装備を作ってもらうの? 腕が良いんだよシィは」
ニコニコと話しかけてくる彼の顔を見てリルはほっと息をつく。
「あ、いえ、それもあるんだけど、シィさんの友人の手伝いを頼まれたんです」
「シィの?」
彼はキョトンとした顔で首を傾げてはいた。
だが――。
「もしかしてこの人ですか?」
そんな中、ベールは彼の方へと目を向けた後、すぐにシィへとその視線を向け尋ねる。
「そう、彼……トートなんだけど、どうやら知り合いだったみたいだね」
「え? 俺?」
視線が彼へと集まる中、本人は驚いたような表情を浮かべるのだった。




