73話 提案
「なに、これ……」
リルはその金額を見て呆然とする。
それもそうだろう。
初心者が持っているような金額ではないのだ。
「えっとね、この前というか昨日皆がいなくなった後にアイテム売ってたら、珍しそうなのがあって人に聞いたらこの値段で買い取ってくれるって」
「それにしたって……」
この大金を見せられて、更にはあっさりと渡してくるのだから。
これだけのお金があれば他の装備だって集められるはず。
そう思ったリルは大金をベールへと差し出し。
「こ、これは貰えないよ……」
「なんで?」
本当に疑問に思っているのだろう。
きょとんとしている彼女にリルはあははと笑い。
「だって、これだけあれば装備買えるよ? ホームは皆でお金を集めよう?」
「そうね、それでベールちゃんの装備を買ったほうが良いわ」
「確かに……ギルドホームは今の所たまり場なだけで特別な報酬があるわけじゃないからね」
リルの言葉に他の二人は賛成のようだ。
しかし、その通りなのだ。
ベールの装備が一新され、彼女の生存確率が上がれば高難易度のダンジョンもクリアできる。
そうなればギルドホームを購入するための資金は集まる。
「……むぅ」
「気持ちは嬉しいよ? だけどそれを貰ったら何か違うんだと思うんだ」
「そういうものなのかな?」
ベールは納得いかないといった感じだが、リルが悪意があって断っているわけではないと理解したのだろう。
頷き、お金を受け取りそれをしまう。
そして――。
「それじゃまずはベールの装備だね、クロネコ、いい装備ないかな?」
「んー資金はギルドホームが買えるぐらいだって言うと……いいやつを知ってるよ行ってみるかい?」
「本当!?」
リルは彼女の言葉に笑みを浮かべる。
そして、すぐにベールの手を取り……。
「早速行こう?」
「え、あ……うん」
ベールは困惑しつつもその顔を赤くし俯いてしまう。
一体どうしたのだろうか? とリルは考えるがすぐに――。
「それでその人はどんな人なの?」
「鍛冶師、って言うか生産職だね」
生産職……前作では薬師と鍛冶師しかいなかったが、今回は様々な物を作れるらしい職業だ。
そんな職業の人をクロネコが紹介してくれる。
きっと名の知れた人なのだろう。
「案内お願いね」
リルはそう言うとクロネコへと微笑む。
するとクロネコは子供らしい笑みを浮かべ――。
「分かった、ついてきなよ」
クロネコの後をついて行く事にした一行は商業区らしき場所まで足を運ぶ。
様々な看板がある中、やけに一つだけ凝ったものがあった。
リルはその看板へと目を向ける。
そこには「シィプの工房」とだけ書かれていた。
恐らくはそこがクロネコの紹介してくれる人の店なのだろう。
彼女は扉を開け入っていく……。
「シィ! いるかい?」
中に入るなり、店主へと呼びかけるクロネコ。
すると奥から返事が聞こえ、クロネコはさらに奥へと進んでいく。
リルたちは戸惑いながらも後を追うと――。
「クロネコ……まだやってたんだ……安心、した」
感情がないような反応ではあったが、少女はクロネコへと目を向ける。
そして、リルたちへと目を向け……。
「あー……たしか、世界樹の騎士倒すって宣言した人……」
「えっと……あはは……」
リルは乾いた笑い声をあげつつ彼女へと向かって頭を下げる。
「初めまして」
「うん、初めましてだね」
独特な雰囲気に戸惑いつつ、リルは彼女へと目を向けると――。
彼女は特に興味が無いような表情でクロネコへと視線を戻し。
「で……何の用?」
用件を尋ねるのだった。




