72話 虹の橋
「あ、あのベール?」
「凄く心配だったんだからね!」
ああ、そういう事か……リルはそう思いあははと笑いながら頬をかく。
確かに現実でのリルは傷つかない。
だとしても友人が傷つくさまは例えVRでも見たくないという人もいるのだ。
そして、ベールはそう言う人なのだと少なくとも理解していたつもりだった。
だが、戦闘に夢中になるあまり自分の危険を顧みずの行動をしていたのだ。
「ご、ごめんね」
リルは謝るとベールはじとーっと見てくる。
その視線が痛いがリルには謝る事しかできず……。
「リル、そろそろクエスト進めましょう?」
「あ、うん!」
カナリアの助け舟にほっとしたもののベールを放っておくわけにもいかず。
ベールの手を取り――。
「ちょ、ちょっと!」
「ほら、行くよ?」
頬を膨らませていたベールは顔を赤らめ――。
今度は納得いかなそうな顔ではあったが、すこし嬉しそうな表情でもある。
「これでギルドとか言うのをつくれるの?」
「うん!」
リルは頷きつつ答えるとクエストを進めるために観戦していた王の元へと近づく。
「いい物を見せてもらった! あやつの本気をしのぐとは!」
ニコニコと笑みを浮かべた王は懐からクリスタルの勲章を取り出す。
そして、それをリルへと手渡してくる。
間違いなく、ギルドを作るためのアイテムだ。
「諸君らのギルドを認可する! この国のギルドとして恥じない振る舞いを心掛けよ!」
王はそう言うと――リルへと目を向け。
「諸君らのギルドの名を!」
「え? ええ!?」
リルは予想外の言葉にカナリアの方へと目を向ける。
しかし、カナリアも目を丸め首を横に振ったのだ。
こんなイベントは知らない。
そう言っているのだろう。
当然クロネコへと目を向けるが、彼女もまた首を横に振っていた。
リルは戸惑いつつもベールへと助けを求めるが……彼女は首を傾げるだけだ。
「どうした? ギルドの名を述べよ」
「リル……」
「あう……」
リルはうんうんとうなり……やがて一つの言葉を口にする。
「ビフレスト……」
「……ビフレスト、虹の橋……ね」
微笑むカナリアの言葉にベールは微笑み。
「虹の橋! いいかも!」
「まぁ、マスターが決めるんだし、変な名前でもないから良いんじゃないかい」
仲間達に反対する者はいないようだ。
ほっとしつつ王へと向き直ったリルはもう一度ギルドの名を口にした。
「私たちはビフレストです」
「ビフレスト、か……貴君らのギルドビフレストを認可する!」
リルたちそれぞれの視界にはギルドを設立したというアナウンスが現れる。
これで彼女たちはギルド「ビフレスト」として活動を開始することになったのだ。
だが、同時に彼女たちは多くのギルドに目をつけられてしまった。
「うわぁ……」
リルは辺りを見て変な声を出す。
なぜならいつの間にか観客がいたからだ。
「いっぱいいるね?」
ベールはリルの声に気がつき彼女が見てる方へと目を向け驚いている様子だ。
「……あらあら、これは次のイベントで苦労しそうね」
「あああ……まずいまずい……絶対先に狙われる」
クロネコは頭を抱えながらそうつぶやく……。
「クエストは終わったし……ここから去ろう」
リルはそう言うと仲間たちと共に闘技場を去り――。
「次はホームね……」
「ああ、そうだホーム欲しいけどお金がないんだよね」
「お金?」
ベールは首を傾げると……。
「ゴールド、だよね?」
「うん、そうだけど……」
「なんかいっぱいあるけど足りる?」
リルへと大金を渡してくるのだった。




