65話 空元気
仲間たちが集まるとリルは拳を握り――。
「じゃぁ、いこう!」
と声を上げる。
その声は異様に元気であり、昨日知り合ったばかりのクロネコも訝しげな表情を浮かべリルを見つめてきた。
「な、なに!?」
リルが彼女に尋ねるとため息をついたクロネコは……。
ベールの方へと目を向ける。
だが、当然彼女が知るわけがない。
しかし……。
「何かあったのね」
カナリアはそんな中、リルへと尋ねてきた。
彼女に対し、リルは目を向けると――。
「…………」
かつての仲間のその姿を思い出し、何も言えなかった。
だが、同じ仲間だった者同士。
黙っているわけにはいかないだろう……。
「実は……ハルちゃんが……」
そこまで口にして、リルはハッと気がついた。
弟のフィンが知っていたのだ。
目の前にいるカナリアが知らないという可能性が低いと考えたのだ。
そして、それは彼女の表情を見て確信した。
「知ってたんだ……」
「……ええ」
その表情を曇らせたカナリア。
そして、リルもまた目を地面へと向ける。
だが、先ほどの事を思い出し……。
「と、とにかく今はクエスト! クエストに集中しよう!」
リルはそう言うとベールの手を握りしめる。
「リルちゃん……」
そうでもしてないと少し不安だったのだ。
だからこそ無意識ではあったが、ベールの手を取ったのだが本人はそれに気がついていなかった。
「さ、さぁ、行こう?」
リルはそんな不安を振り払いたいかのように歩き始め。
ベールはそれに引っ張られて連れられて行く……。
「仲間がどうかしたのかい?」
クロネコは二人の背を見つめながらカナリアに尋ね。
それに対しカナリアはゆっくりと答える。
「邪神に居るのよ……ううん、正しくは邪神のマスターと言った方がいいかしら……」
「……あー、なるほど」
それはショックだ……。
クロネコはその言葉を飲み込みため息をつくのだった。
ギルドクエストは王様に認められるという条件がある通り、王城で受ける事が出来る。
リルたちは早速王へと謁見をする手続きをすると……。
「本格的なんだね」
ベールはそうつぶやいた。
それもそうだろう、従来のゲームの多くは王に会うのにこういった手続きをするものは少ない。
だが、実際に王に会うとなればそれなりの準備や手続きが必要だ。
流石に何日も待て、とは言われない物のこれだけしっかりと手続きをさせるのはリアルさがあった。
「次の者!」
暫く待っているとそんな声が聞こえ、クエストは進行し……リルたちは謁見の間へと向かう。
大きな玉座に座るのは王様だ。
「そのほうら、ギルドを作りたいと申したな」
リルはその言葉に「はい」と答えると王はニヤリと笑う。
「ふむ、お主らのような者がギルドを作ってくれれば確かにこのディーンの治める町もよくなろう……しかし、力を持っていればの話だ」
そう口にした。
彼の言葉と共にリルの目の前に現れるのはクエストの進行を表すウィンドウだ。
どうやらこのディーンという王様は無類の決闘好きらしい。
だが、自分で戦うわけではなく、信頼する部下と戦わせその試合を見るのが好きなのだと書いてある。
これが人型のエネミーと戦うという理由なのだろう。
リルは仲間達へと目を向け、そして……。
「どう示せばよろしいでしょうか」
王にそう尋ねるのだった。




