64話 気を取り直して
かつての友人がレッドギルドに居る……。
その事実を知ったリルはがっくりと項垂れていた。
しかし、このままではいけないと考え、立ち上がると――。
「お、おい!」
「友達が、呼んでるから……」
そう言うと慌てたように店に入ってきた少女がいた。
彼女は息を切らしつつ、リルを見つけると駆け寄ってくる。
「リルちゃん! どうしたの?」
心配になって来てくれたのだろう。
だが、方向音痴の彼女がどうやってここまで来たというのだろうか?
地図の見方だって知らない。
だというのに、彼女は来てくれたのだ……。
「……ベール?」
最初はバグか何かかと思った。
しかし、目の前にいるのは確かに今の相棒であるベールだ。
「もしかして、そこの人が……!!」
ベールはリルの弟でもあるフィンへと目を向けるとキッと眉を吊り上げる。
そして詰め寄ろうとするのだが、当然フィンは両手を前に出しぶんぶんと振った。
それもそうだろう。
詰め寄るベールの表情にはすごみがあるようにも感じられたからだ。
「待て待て待て、俺は弟だよ!!」
「……へぇ」
そう聞いて、彼へと目を向け為を反らさないベール。
しかし、それも仕方がないとも言えた。
そして……。
「リルちゃんに酷い事言ったりする弟さん、だよね?」
その目は少し黒い物が揺らいでいるようにも見え……。
対し、それを聞いたフィンは呆れたような表情を作ると――。
「俺が酷い事を? へぇ……」
「あ……」
まずい……。
そう気がついた時には遅かったのだ。
「今度飯作らないからな」
「ぅぅ……」
いつもなら「それは勘弁して?」と言ってご機嫌取りをするが……今の彼女にそんな元気はなかった。
だからこそだろう。
張り合いがなく感じてしまったフィンは溜息を一つ漏らすと――。
「ハルの事は一旦忘れろ……ゲン爺の事もだ……結局ゲームなんだやりたい事やらしておけばいいだろ?」
「それは、そうなんだけど……」
リルはそう言うと大きくため息をつく。
だが、フィンに言われたことは事実だ。
これ以上何を言ったってしょうがないのだ。
「あああ! もう、考えないようにする!!」
リルが声を上げるとベールは驚き目を丸める。
そんなベールの方へと目を向けたリルは彼女の手を取り――。
「絶対にギルド作るよ!」
「う、うん?」
空元気……ではあったが、勢いに押され思わず頷くベール。
だが、リルはそうでもしないとまたすぐに考えてしまいそうだったのだ。
だからこそ、彼女はぶんぶんと頭を振り――。
「準備しよう!」
「わ、分かっったって……きゃあ!?」
ベールの手を握ったまま走り出す。
そんな彼女たちの背中を見つめ――。
「なんなんだよ」
あきれるのは一人の剣士のアバターだ。
彼の周りには興味を示していた他のアバターがおり……。
「リアルイケメンだって……」
「しかも、いざという時には守ってくれるって!」
黄色い声が聞こえ――。
「……うげぇ」
心底面倒そうな表情を浮かべるとログアウトをするのだった。
一方町の中を走るリルたち。
彼女たちはこれからこなすクエストのため消耗品を購入していく……。
とはいっても、買うのはリルの罠と矢ぐらいだ。
昨日はカナリアの支援もあったためそこまでポーション類を消耗はしていなかった。
あえて言うのであればリルのMPポーションぐらいだ。
「これで……いいかな」
「今度はどんなクエストなんだろうね?」
まだ見ぬクエストに思いをはせるベールは少しワクワクしているようにも見えたが、時折リルの様子を窺うようにチラチラと目を向けてくる。
先ほどなにがあったのかは彼女はまだ知らなかった。
だが、そんな彼女の視線に気がつきつつもリルは――。
なるべく考えないようにと思うのだった。




