5話 騙された少女
「ふ、ふざけるなよ!! 俺のパーティーメンバーだぞ!!」
怒鳴りつけてくるが、リルは呆れたようにため息をついて見せた。
「あのさ、君達パーティーメンバーって言う割にはこの子に経験値渡すつもりないじゃん!」
何故それが分かったのか? それは簡単だった。
このゲームをやるにあたって彼女は”兄”に聞いていたのだ。
このアスカレイドオンラインは嘗て彼と出会った神々の黄昏というオンラインゲームの正統後継作だと……。
彼が言うにはPTなどの仕様もほぼ同じだった。
「通常PTは一つのPTにしか入れない、なのに彼女に申請を出したら何の問題もなく入ってきた……これってPTと言いつつ入れてないってことだよね」
「ぅ……」
図星だったのだろう、三人は表情を固める。
「因みに……」
リルは彼女へと目を向けると新たに見えたステータスを確認する。
魔法使いを表すアイコンの横には彼女の名前がついていた。
ベールという名前らしい。
「ベールは彼らの名前知ってるの?」
「え? なんで――」
名前を知っているのか? そう思ったのだろう。
驚いた表情を浮かべた彼女を見てリルははっきりと口にする。
「私の名前、見えるでしょ? じっと見つめればステータスが見れるよLvもね」
訝しげな表情を浮かべつつベールはリルの事を見つめてきた。
すると目を丸め――。
「リル……さん?」
「そう、私はリル……これではっきりしたね、PTでヒールさせるならHPの管理とかあるし、通常会話でも相手と目を合わせるだろうし自然と名前を見る機会はあるはず……それで彼ら名前は?」
「知らない、です……」
当然だ、名前を見る事さえ驚いた少女が知るはずもないのだ。
最初からPTなどではなかったのだから……公平に経験値を分けるつもりであればPTにいれていてもおかしくない。
最初から利用をするだけして捨てるつもりだったのだろう。
「最低だね……」
恐らくは目の前に居る3人のうち一人はこういったゲームをしていたのだろう。
だからこそ彼女を利用し、仲のいい3人で経験値を分けていた。
「そ、そんなわけないだろ!!」
「まだ証拠はあるよ? ねぇベール、どのぐらいの時間一緒に遊んでたの?」
「えっと……2時間ぐらいです、レベル上がったらヒールを覚えようと思ってて……でも……」
そう言った彼女を哀れむような表情を見せたリルは――。
「2時間も狩っててLv1なわけがないでしょ……公平ならもっと上がってておかしくない」
効率的とは決して言えないにしろのんびりとソロ狩りをしていたリルでさえ彼女と出会う前にLv8になっていたのだ。
「大方どうやって別れるかって考えた時にホブゴブリンを見つけて襲わせた……死に戻ればいちゃもんつけてそれっきりって感じかな?」
「こ、この女!!」
剣を抜き男はウィンドウを乱暴に操作をする。
どうやら決闘を申し込んできたらしい。
だが、リルは受けるつもりはなく……。
「面倒……」
当然NOを選択しようとした時だ……。
「お前のPTが横殴りをして俺達の獲物を奪ったって通報するぞ!」
「は?」
何を言っているのだろうか? リルは呆れてしまうが……。
ニヤニヤとしている男たちは――。
「しかもヘイトはまだ俺らに向かってたんだ! MPKじゃねーのか?」
憂さ晴らしという訳だろう。
だが、周りの人達は決していないわけじゃない。
今のやり取りを聞いていて苛立ってる人は居たのだ。
「そうだとしても、何の準備もさせずに決闘はないんじゃないか?」
一人の剣士はそう口にし――。
「君たちは町に戻っていたポーションとか買う暇があったんじゃないか? 彼女にも買う権利がある」
そう言われてもリルは困ってしまった。
いくら何でも物資が足りないのだ。
具体的に言うとゴールドがない……。
「……ふん、そうだな。良いぜ犯罪者だろうがそこは許してやるよ」
「ただし逃げたら承知しないからな!!」
「今の会話スクショに撮ったからさ、逃げられると思うなよ」
面倒なのにつかまった。
リルはそう思いがっくりと項垂れるのだった。




