56話 世界樹の根をかじる竜
「……そ、そうなんだ」
リルは少し笑いながらそうつぶやく。
するとベールは「あはは」と乾いた笑いをした。
それもそうだろう。
彼女自身も忘れていた事なのだ。
「だから蛇、呼べたんだねー?」
「そ、そうみたいね」
蛇が呼べた理由にようやくたどり着けたベールは頬を人差し指でかく。
そんな様子を見ていたリルたちは――。
「……なんだろう、この可愛らしさ」
「ええ……なんか昔のリルを思い出すわ」
「なんかさらっとディスられてない? 私……」
カナリアの言葉にリルは笑みを浮かべながらナイフで突っつく。
するとカナリアは余裕の笑みで――。
「あら、なんだか守ってあげたいってぐらいよ? 今は普通の可愛い女の子でしょ?」
「あの動きが出来る普通って何……」
「現実じゃ普通だよ!!」
リルがそう訴えるとベールは首を傾げ……。
「そう?」
「そうって……ベール? 私泣くよ……」
いくら何でもそれはないだろう。
リルはそう訴えるようにベールを見つめる。
「普通っていうか、結構抜けてるよね? この前、皆に止められてなければぼーっとしたまま……」
「わー!?」
リルは慌てて彼女の口をふさぐ。
その事は覚えていたからだ。
だからこそリルは彼女を止めたのだが……。
「この前? ってどういう事? あなたたちってリアルの知り合いって事?」
「そうでしょ? いくらリルでも数日でここまで仲良くはなれないわよ」
「そう……かな?」
リルはなんか微妙な気になってしまったが、確かにクラスメイトに似ていたというのはあるかもしれない。
しかし、そんな事よりもリルがベールに惹かれた理由は――。
単純に彼女を見捨てられなかったからだ。
「……とにかくベール、その事は言ったらだめだからね!」
「んー? リルちゃんの可愛さをアピールするいい機会だと思うけど……」
なんで自分の失態がかわいいに繋がるのか? リルは半分目を閉じながらじっとベールを見つめる。
すると、彼女はなぜか頬を赤らめ――。
「そうだ、この新しい魔法……使ってみてもいい?」
焦ったようにそう口にする。
確かに魔物がいなくても魔法の確認が出来るのがVRのいいところだ。
「それは良いけど、危なくない?」
「PT内ではダメージ判定ないわよ? あったらさっき私のHP減ってるでしょ?」
リルは先ほどカナリアの事を突っついたことを思い出し……。
「そうだった……」
勿論ダメージを与えるつもりなんかはなかった。
だが、友人を突いたことに罪悪感を感じたリルはしゅんとすると……。
「もう、気にしてないからそんなにしょげないの」
まるで姉の様にリルの目線に合わせしゃがみ込んだカナリアはそう言うと、ベールの方へと目を向ける。
それにつられるようにリルもベールへと目を向け――。
「早速使ってみてよ」
リルはベールへとそう語りかける。
するとベールは緊張した表情でコクリと頷き杖を握り締める。
「ニーズヘッグ」
クエスト名であり、竜の名前それが魔法の名なのだろう。
リルは勿論カナリアもその名を聞き目を丸めた。
そして――。
「何と言うか、ぴったりね?」
「うん!」
ニーズヘッグそれはユグドラシル……つまりは世界樹の根をかじる竜の名だ。
つまり打倒世界樹の騎士を目指しているリルたちにとってはこの上なくぴったりな召喚獣と言えるだろう。
「ぴったり?」
「そう、ぴったり……私達に、ね」
微笑んだリルは現れた漆黒の竜を見てベールへと動かしてみてほしいと告げる。
するとベールはやや戸惑ったモノの竜を操り……。
「乗れないかな?」
などと言い始めた。
それは流石に無理だろう……リルはそう思ったのだが、リルはいそいそと竜へと乗り始め――。
「リルちゃん! この子乗れるよ!」
「乗れるんだ……」
「効果時間があるはずよ! 周りは毒の沼なんだから気を付けてね」
はしゃぐ彼女を見て忠告をするカナリアとは別にリルは驚いていた。
そして――もう一人……。
「なんだかすごい人達と遊んでる気がする……」
ややひきつった笑みを浮かべたクロネコはそうつぶやくのだった。




