53話 理解が出来ない
「「…………」」
突如空中に浮かび上がったリルをぽかんと見つめるのはカナリアとクロネコだ。
それもそうだろう。
現状、空を飛ぶスキルは無いのだ。
いくらステータスを強化したからと言ってジャンプして飛べる距離というのはある程度決まっている。
それをあっさりと超えたリルを見て驚かないわけがないのだ。
しかし、当人は気にせず構えた弓から矢を放ちグールを撃ち抜いて行く。
元々杖の持ち主とロキ一式を持つものが仲間と予測されているのだろうか?
グールを倒すには十分すぎる火力だった。
「なに、あれ?」
「さ、さぁ? 見るのは二回目だけど……よくわからない」
クロネコはホブゴブリンとの戦闘を見ていた。
だが、その時も今回もリルの行動は理解できなかったのだ。
いくらVR特性があるとは言ってもリルのスキルの使い方は異常だった。
自分で罠を踏み抜く……。
そんな事をするプレイヤーはいないだろう。
いや、そもそも……。
「罠ってあんな使い方が出来るんだ」
罠を使えるアサルトはリルだけなのだから……。
「二人とも! 手を貸して!」
だが、いくらリルでも数相手に一人で戦うというのは無理がある。
立ち止まってる二人へと声をかける。
現状ベールを動かすわけにはいかないのだ。
何せ彼女には何かあった時に杖を回収する役目があるのだから。
「リルちゃん! 頑張って!」
ベールは最初からその動きをして見せたリルの行動に疑問を感じないのだろう。
純粋にリルを応援していた。
だが……。
そんな彼女は絶対に安全とは限らないのだ。
当然の様にグールたちはベールの方へと目を向ける。
「え?」
敵意が自分に向いていることに気がついたベールは慌てて――。
「あ、アイスランス!!」
魔法を唱える。
だが、触媒無しで放たれたそれは大したダメージにならず。
「あ、あれ?」
彼女は困惑してしまった。
装備がない事でそこまで弱体化するとは思わなかったのだ。
「クロネコ!! ベールちゃんを守るわよ」
「わ、分かった……けど……」
自身無さげにグールを見るクロネコ。
このままではベールが襲われてしまうだろう。
「自信持ちなさい、失敗してもすぐに回復させてあげるわ……欠損のステータスもすぐに回復すればかかりづらいはずよ!」
カナリアはそう叫び、本に手をかざす。
「ファイアボール!!」
そして、魔法を唱え今にもベールの元へとたどり着きそうだったグールを焼き尽くすと――。
「大半はリルがヘイトを持ってるから溢れたのを倒すの! いいわね」
「わ……分かった」
クロネコはようやく走り出す。
走り抜けたと同時にグールにカタールを突き刺そうとするが、うまくいかず通り過ぎてしまい。
「きゃあ!?」
その刃はベールの方へと向かってしまい。
ベールは思わず悲鳴を上げる。
「へ? ご、ごめん!」
ベールの真横を切り裂いたクロネコは謝罪を告げる。
しかし、ベールは思わず座り込んでしまう。
それもそうだろう。
目の前を刃が通り過ぎて驚かない人はいない。
それがたとえVRだとしても、だ……。
「クロネコは避けることに集中して、カナさん魔法でグールを!!」
現時点で攻撃と回避を両立させることは難しい。
リルはそう判断し攻撃をカナリアへと頼む……。
それに対し返事をしようとカナリアはリルの方へと向くのだが……。
「分かったけど、リルちゃんの動きはやっぱり理解できないわ……」
「ん?」
空中を真横に移動する彼女を見てそうつぶやくのだった。




