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52話 食人鬼

 毒がはねないようにとゆっくりと杖をつけていくベール。

 その様子をリルたちは見守っていた。

 杖が完全に使った後、変化は起きた。

 リルたちを囲う様に地面が盛り上がり、そして何かがはい出てきたのだ。


「ゾンビ!?」


 リルは慌ててナイフを構える。

 だが……どうやらただのゾンビではないようだ。


「うそでしょ……」

「グール……食人鬼だ!」


 ゲーム内で人食い鬼と言われてもリルはぱっと思いつかなかった。

 だが……。


「つ、つまり?」

「四肢欠損のバットステータスがある! 喰われたら30分は回復しない!」


 腕一本ならまだ何とかなるだろう。

 だが、足を喰われた時点でリルは詰み、クロネコも同様だ。

 いや、それだけじゃない。

 もしここで全滅となった場合。


「ベール! インベントリ……アイテム欄に杖の名前は?」

「え? ないよ?」

「まずいわね……」


 迫るグールを睨みカナリアが呟く。

 それに対しリルも頷いた。

 ベールは確かに杖を手放した。

 それはリルの武具とは違い譲渡などが出来るという事だ。

 十分にロストしてしまう可能性がある。

 または、その後この場所に気がついたプレイヤーに回収されてしまう可能性もあるのだ。

 だからこそ――。


「今日だけで全力……どれだけ出してるんだろう?」


 リルはつぶやきながらフェンリルを構える。

 それを見てカナリアは本を開き――。

 クロネコもカタールを右手に装備した。


「わ、私は?」

「杖ないとろくに魔法使えないでしょ? 杖の傍で休んでて」


 そもそも、そうでなくとも杖の傍から離れるのは得策ではない。

 何故なら……。


「私たちが全滅しそうになったら杖を回収して!」


 そう、何としてでもベールの装備は失うわけにはいかないのだ。


「で、でも!」

「あら、大丈夫よ? グールは確かに強力だけど……バッドステータスになる条件は結構厳しいの」

 

 そう言ってほほ笑むカナリア。

 それを聞いてほっとしたのはベールだけではない。

 リルもだった。

 彼女はクロネコの方へと目を向け――。


「それじゃ、かき乱してね?」

「簡単に言うね……」


 苦笑いするクロネコへと笑みを向けた彼女は空を仰ぐ。

 天井は高い、足場は狭く、毒の沼が多い。

 だが、それは逆に言えばリルにとっては自由とも言える場所だ。


「昨日のアレの出番かも……」


 リルはそうつぶやくと先ほどまで見ていた地形を思い出す。

 一歩間違えれば毒の沼の中に落ちる。

 その危険はあった。

 だが……。


「やるしか……ないよね」


 正直に言うと練習をしたかったといったほうが良いだろう。

 しかし、現状最も機動力のあるクロネコはまだ不安定だ。

 その実力を十分に出し切っていない。

 なら、不安でもある程度動けるリルがかく乱するしかない。

 クロネコにかき乱してと言った手前ではあったが、恐らく彼女では捕まってしまうだろう。


「というか、食べられて四肢欠損って年齢制限間違ってるんじゃ?」

「……まぁ描写は普通に攻撃されるし血液でないから問題視されてないんじゃないかしら?」


 十分問題だよ!? とリルは心の中で突っ込むが、今はそんな事を言っても仕方がない。

 戦うしかないのだから……。

 ゆっくりと深呼吸をしようとし、ピリピリとする空気を思い出したリルは深いため息をつくとグールに向かって走り出す。

 モブ扱いなのか数が多いそれの間をすり抜けつつ斬っていく彼女は人間とは思えない動きだ。

 実際現実で同じ動きをしろと言われても到底無理な話ではあったが……。


「凄い……」


 クロネコはその動きを見て感動をしていたみたいだ。

 いや、事実ゲーム内でもリルの動きをマネできる人間は少ないだろう。


「ってリル! 囲まれてるわよ!?」


 だが、リルも人間であることは間違いない。

 身動きが出来なくなるほど密集されたところで彼女の動きは止まり……。


「高速設置……」


 呟いた言葉と共に彼女は宙に舞い、弓を構えるのだった。

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