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50話 勧誘

 戦闘を繰り返す中、リルはチラチラとクロネコを確認する。

 その理由は彼女のプレイヤースキルとも言って良い出力コントロールだ。

 はっきり言って荒さが目立つ。

 そして、彼女自身冷静な判断が追い付いていない。

 そのため被弾がかさみ……。


 カナリアの支援なしではとっくに倒れていてもおかしくはない状況だった。


「……き、キツイ」


 そんな中、声を漏らすのはクロネコ自身だ。


「ねぇ、やっぱりトップの中に入るのは無理……」

「私とベールは初心者だよ」


 こくこくと頷くベールはどうやらクロネコの勧誘に肯定的だった。

 だからこそ好都合とばかりにリルは彼女への押しを強めていた。

 リルとしては彼女がどうしても仲間に欲しいのだ。

 なにせ始めたばっかりの情報屋でリルたちに有益な情報をちゃんと売ろうとしていたのだから。

 それだけじゃない、このヘルヘイムも確かに間違ってはいない情報を持っていた。

 調べることは元から得意なのだろう。


 だが、足りないのは技術だ。

 しかし、それは経験でどうとでも補える可能性があった。


「あのね、初心者とか関係なしに普通あんな動きが出来るわけがない、それにユニーク持ちが言っても説得力がないと思わないのかい?」


 うんざりした表情ではあったが、リルは笑みを絶やさずに答える。


「トップに食い込める技術を身につけられる可能性があるよ」

「お世辞もいい加減にして……」

「お世辞、ではないわね……リルちゃんが気に入ったの分かった気がするわ」


 カナリアは何故クロネコに執着するのかを理解していた。


「確かに細かい調整はまだできないけど……出来たら化けるわね……回避斥候に関してはリルちゃんを抜くかも」

「でしょ?」


 そう、リルは確かにVR特性があり、パリィや回避で常人の域ではない。

 しかし、それはあくまで感覚的なモノであり、細かい調整が実は不得意なのだ。

 クロネコは確かな技術を持っており、ある程度コントロールが出来る。

 細かい調整、それさえできれば彼女は十分に化ける可能性があったのだ。


「うーん? よくわからないけど……それってすごいの?」


 本物の初心者であるベールは首を傾げる。

 そんな彼女を見てそばに寄ったリルは――。


「簡単に言えばベールの大火球を威力を落とさず範囲を狭くできるぐらい凄いよ」

「そ、それはすごいかも?」


 まだ、半分以上は理解できていないのだろう。

 どこか疑問を浮かべてはいたが、じっとクロネコを見つめるとそのクロネコはそっぽを向いてしまう。


「す、すごくないし……できないし」


 呟く彼女だったが、幼い見た目のアバターのせいで子供が拗ねたように見えたのだろう、ベールは彼女の頭をなではじめ。


「あ、ごめんね? 凄い! 凄いよ?」

「こ、子供じゃないから! これでも大学生だよ!!」

「……え?」


 そうは言ってもアバターでは見た目は分からない。

 リルとベールのように現実そっくりになることは少ないのだ。

 だからこそ、彼女の訴えはどこか現実味がなく……。


「とにかく、私もクロネコの動きを見て教えられそうなところ教えるからね?」


 そうリルは切り出すと先へと進む。


「そ、そうだね! そういうのはリルちゃんの方が詳しいもんね」

「ちょ、ちょっと!?」

「分かるわ、見た目……気にしちゃうの……」


 最後に残ったカナリアはクロネコの頭に手を乗せ撫でると――。


「でもね、背はきっと伸びるわよ」

「アバターじゃ伸びないからね!」


 彼女は訴えるように両手を拳を握り地面へとたたきつけるようにすると叫び――。

 暫くしてから、自分のアバターを見回し……。


「うう……もう少し現実っぽくなれば良かったのに」

「……アバターはランダムだから、寧ろ可愛い方でよかったと思ったほうが良いわよ……酷いのだとスタッフの悪意を感じるわ」


 それには思い当たりがあったのだろう。

 クロネコはサーっと青い顔になり、リルたちの後を追い始めるのだった。


「あらあら……」


 そんな彼女の姿を見てまるで困った子供を見守る母親のような表情を浮かべたカナリアは仲間たちの後を追いかけるのだった。

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