48話 攻略開始
館の前までついたリルたちはその扉へと手をかける。
少し力を入れるとギィィィィィという音と共に扉はぎこちなく開いていく……。
中は暗く、蜘蛛の巣がはり……いかにも古びた洋館。
いや、使われていない洋館のような姿だ。
「うわぁ……」
カサカサと走る虫を目にしたリルは思いっきり嫌な声を上げる。
実は彼女は虫が苦手なのだ。
「ね、ねぇ……もう帰ろう?」
だが、そんな彼女よりもベールは腰を引いた形でリルに訴える。
今来たばかりだというのに服の袖を引っ張る少女は帰ることを促してきた。
そんな彼女を見て、リルはあることに気がつく。
「もしかして、怖いの苦手?」
リルの問いに対しベールはこくこくと頷く。
どうやら相当苦手な様子ですでにもう涙目だった。
「それは、何と言うか……」
クロネコは呆れたような顔をしてそうつぶやき……。
「ま、まいったわね?」
カナリアは腕を混んで困り果てた笑みを浮かべている。
その理由はこの屋敷に来たことがないリルでも分かった。
いや、北欧神話をかじっていたリルには分かったといったほうが良いだろう。
「も、ももももしかして、出るの?」
「……多分」
ヘルヘイム……ロキの娘であるヘルが住む館。
そして、ヘルはニブルヘイム……つまり死者の世界の管理者ともいえる存在だ。
その彼女の館には死者の魂がいないはずがない。
「そ、そんなぁ……」
予想はしていたのだろう。
もう進みたくない、ではなく進めない様子の少女にリルは頬をかきながら困り果てる。
まさか装備を借りて進むわけにもいかない。
クエストを受けたのはベールなのだ。
彼女がいなければクエストは恐らく進まないだろう。
「杖、諦める?」
だが、怖がる彼女を無理やり連れて行くわけにもいかない。
そう思ってリルは尋ねるのだが……。
「――――っ!!」
ぶんぶんと首を横に振る。
どうやら杖は諦めたくないみたいだ。
それもそうだろう。
リルだってそんなことはしたくない。
そう考えた彼女は――。
「分かった、ベールの事は守るから、ね?」
そして彼女を落ち着かせようとそう伝えると彼女の手をしっかりと握る。
「でもリル?」
ほっとしているベールの横で辺りを見回していたカナリアはため息交じりでリルの名を呼んだ。
リルは彼女の方へと目を向けると小首をかしげ――。
「なに?」
尋ねるのだが、やはり彼女はどこか困り果てた表情のままだ。
「虫一杯よ?」
「な、なんとか……出来ると……出来るかな……でき、たら……いいなぁ……」
だんだんとその顔から表情が消えていくリル。
それを見ていた3人は何とも言えない不安感を感じていく……。
「だめ、そうね……」
「いや、ここまで来たんだから、それでやめましたはないんじゃないかい?」
二人の言葉にリルはぶんぶんと頭を振ると――。
「だ、大丈夫!」
と口にするがその声は少し震えていた。
半眼になったクロネコはその言葉を聞くなりランタンに明かりをつけ……。
「まぁ、私も虫嫌いだけどね……」
呟くと辺りを照らす。
するとカサカサという音と共にムカデのような虫が去っていくのを見たリルは思わず身震いをしてしまう。
「……大丈夫?」
「う、うん……」
正直大丈夫ではない! と言いたかったところだが、それを言ったところで意味がない。
自分よりも怯えているベールが良くと言っている以上、帰るという選択肢はなかった。
「い、行くよ……」
声は震えていたが、なんとか平静を保ったリルはそう言い、一歩一歩と屋敷の中を歩き始める。
辺りを見回してみると今いるところはエントランスだ。
「このマップってどういう所なの?」
「普通なら上に行ってヘルとバルドルとの戦闘になるんだよ……けど、毒液なんて見つからなかった」
クロネコがそう言うとカナリアも頷く。
なら、新たに別のマップが追加されたと考えたほうが良いだろうとリルは考え――。
「上がだめなら地下とか出来てないかな?」
「確か、あかない扉があったわね……行ってみましょうか?」
「わ、分かりました」
カナリアの提案を受け入れたベールの言葉に頷いたリルはカナリアの方へと目を向けるのだった。




