45話 人さらい?
リルはベールに今度こそそこで待つように伝えるとすぐにカナリアへとメッセージを飛ばす。
集合場所は今ベールがいる場所だ。
そして――。
「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
クロネコの腕を引き走っていたのだ。
「だって逃げようとしたし……」
顔を赤くした彼女は「ぅぅ」とうなると目をそらしてしまう。
確かに彼女に前衛を任せるというのは普通に考えれば無謀だろう。
しかし、リルは実戦でこそ彼女が自身の能力を高めるという事も分かっていた。
VR特性があるとは思えない。
だが、それだとしても異常な能力を持っているのは分かるのだ。
「分かった逃げない、逃げないから!」
「そう?」
リルはそう言う彼女の方を再び見ると彼女はゆっくりと視線を外す。
嘘だ! そう理解し、結局ベールの元まで腕を引いて走るのだった。
少しして、ベールのいる家へとつくとリルは扉へと手をかける。
PTの彼女がいたからだろう、扉は難なく開かれ……。
「リルちゃん!」
ベールは満面の笑みを浮かべてリルを出迎える。
そして、すぐにリルがクロネコの手を掴んでいることに気がついた彼女は――、
「ど、どうしたの?」
先ほどの事もあってか警戒していた。
だが、リルは乾いた笑い声をあげると……。
「逃げちゃうから」
「……人さらい」
「人聞きが悪いなぁ……」
クロネコの方へと目を向けたリルは彼女を半眼で睨むように見る。
そうすると、彼女は顔を赤くしてまた目をそらしてしまう。
そんなに嫌だったのだろうか? 不安になったリルは彼女の視線の中に納まるように動く。
「ダメ?」
そして、尋ねるのだが……彼女は「うぐ!?」というよくわからない声を上げ――。
「だ、だめじゃ……ないよ?」
上擦った声でそう口にした。
それにほっとしたリルは笑みをこぼしベールの方へと目を向ける。
するとなぜかふくれっ面の彼女姿があり、リルは首を傾げた。
一体どうしたというのだろうか?
「ベール?」
「なんでもない!」
いや、その言い方は何でもないわけがないでしょ? とリルは考えるが何が理由だろうと考えてみると一つしかに事に気がつく。
「えっと……クロネコの事?」
「っ!」
当たりだったのだろう。
彼女はピクリと反応を示す。
それもそうだとリルは考え――。
「ごめん、置いて行っちゃって……でも、どうしても放っておけなくてさ……その……何かちゃんとした理由があるって思ったんだ」
「……それは、何となくわかってたけど……」
ベールは眉を下げそっぽを向きなぜか頬を染める。
「と、とにかく私を置いて行っちゃ嫌、なんだからね!」
「う、うん、気を付けるよ」
不安だったんだよね……無理もないよね……だって、初日であんなことになったんだし……。
リルは申し訳ないと思いつつ、手を合わせて再び謝る。
するとベールはしょうがないなぁという表情を浮かべ――。
「もう、良いよ」
「…………あ、ありがとう、気を付けるね」
どうやら許してくれたみたいだ。
ほっとしたリルはクロネコへと目を向ける。
「……もしかして、恋人?」
「はい!?」
なんでそうなるのか……。
リルは思わず突っ込みたくなるが……ベールはなぜか反論をしてくれない。
「女の子同士ってのは良いよね……男は乱暴だし、視線はいやらしいし!」
クロネコはやれやれと言った感じだが、リルは頭を抱える。
なぜかデジャヴを感じたのだ。
かつて全く同じことを言った人をリルは知っていた。
「……確かに視線はいやらしい時はあると思うよ?」
そして、何故かベールがそこだけを肯定し……それ以上は何も言ってくれなかった。
「とにかく! そのヘルヘイムは何処にあるのか教えてくれないかな?」
早く話を進めよう……リルはこれ以上深入りするのは危険だと判断しクロネコに情報を求めるのだった。




