44話 強制加入?
「あれ?」
リルは先ほど居た場所まで戻ろうと地図を確認したところ、ベールは移動をしているみたいだ。
「どうしたんだい?」
「あ、うん……ベールが……凄い遠くに居る」
あのベールが一人で歩き回るというのは考えづらい。
出会ってからずっと一緒だったのだ。
彼女としても一人での行動は不安になってしまうだろう。
そう思っていたのだが……。
「なんか気になる事でもあったんじゃないかい」
そう言うクロネコに対しリルはゆっくりと首を横に振る。
それは無いだろうと……。
あの時、リルは確かにそこで待っててと言ったのだ。
だが、いくらベールだとしても大人しく待つとは限らない。
もしかしたら――。
「追いかけてきた?」
リルはその可能性を考える。
だが、追いかけて来たにしては正反対の方へと向かったみたいだ。
「どれどれ……って……ここNPCの住宅街じゃない……正反対だよ」
追いかけてきたというのは無いというクロネコに対し、リルはしっかりと首を振る。
出会ってほんの少しの彼女に何が分かるというのだろうか?
「ベールは方向音痴なの」
「いや、地図見れば流石に……」
それもそうだろう、だが地図の見方をベールは知っているだろうか?
いや、恐らく知らないだろう。
何せベールは正真正銘の初心者だ。
「それに本当に迷ったならPTチャットで……」
「多分焦ってそれを忘れてると思う」
間違いない。
リルはそう確信し――チャンネルをオープンからPTへと変更する。
「ベール、ごめん……置いてきちゃって」
「………………」
だが、反応はない。
しかし、確実に彼女の元へと届いており、今頃驚いているころだろうことは分かっていた。
暫く待っていると……。
「リルちゃん……よかったぁ」
ほっとした声が聞こえリルはふぅと息を漏らす。
そして――。
「もしかして、迷子になったのかな」
リルが訪ねると――。
「そう、それでね? えっとね、なんか毒を持ってこいって言われたの」
迷子になってなんでそんなことになるのだろうか?
リルは驚くがすぐに彼女の運を思い出す。
彼女は迷ってしまい、その過程でなにかしらのクエストを引き当てたのだろう。
そして、その時彼女は一人……つまり、彼女に利点のあるクエストだと考えたリルは――。
「その毒の名前はなにか分かる?」
「へるへいむの毒液っていうの」
またとんでもない物を引き当てたなぁとリルは苦笑いを浮かべた。
何故ならヘルヘイムというのを彼女は知っていたからだ。
ヘルの住む館……そこから滴る毒……それが元のクエストかな。
って事は恐らくこの装備の解放に使ったあの杖に関係のあるものだと思うけど、そんな所どこにあるかなんて……。
「ねぇ、私の事無視してない?」
「………………」
リルがベールとの話をしている中、しっかりと待っていてくれたクロネコの訴えにリルはそちらの方へと目を向ける。
そして、ハッとすると……。
「ねぇ、情報屋を名乗るぐらいなんだし、詳しいんだよね」
「え? ま、まぁそうだよ? いくら何でも嘘の情報を売るつもりはなかったし!」
彼女の答えを聞きリルは笑みを浮かべる。
しかし、その場に居ないベールにそれは伝わることはなく……。
「どうしよう、館なんてどこにあるのか……」
不安がっていた。
ベールとしてもクエストを諦めたくはないだろう。
それはしっかりと伝わっていた。
「ヘルヘイムの館ってどこにあるかしってる?」
「……し、知ってる、知ってるけど……!!」
やった! リルは笑みを浮かべ声を漏らす。
そして――。
「ベール、さっきのクロネコって人が知ってるって!」
「え? 本当!? でも……情報って確か」
上擦った声が聞こえ、リルはクロネコへと目を向ける。
確かに情報を手にいれるには対価が必要だ。
しかし、リルとしては彼女が欲しがるものが何となくわかった。
「大丈夫……任せて」
それをベールへと伝えると――。
「じゃぁ、そこに連れて行ってくれる」
「待ってよ、高難易度ダンジョンだよ!? 少なくともプリースト……それに前衛が足りない!」
流石に無理のある話はしたくないのだろう。
だが、リルとしてもベールの装備強化は見逃したくない。
「プリには当てがあるし……足りない前衛も見つけたよ、二人が良ければギルドにも誘う……」
そう言うとじっとクロネコを見つめる。
すると彼女はハッとし……。
「え? 前衛って私?」
呆けた声をだし、自身へと指を向けたのだった。




