42話 ニーズヘッグ
「にーずへっぐ?」
ベールはその説明欄をじっと見つめる。
【ニーズヘッグ】
呪われたフリッグはニブルヘイムとへと名を変え、蛇を操る力を君は手にいれた。
だが、まだこの杖には力が隠されているとフールの村長に言われた君は彼の言う通り、ケルハイトという召喚士を訪ねた。
果たして、この杖にはどんな力が隠されているのだろうか?
「……? そんな事、言われてないよね?」
それもそうだろう、二人は村長にそんな話を聞く前に帰ってきてしまったのだから。
しかし、それ自体はフラグになっていなかったようで直接ここに来てもクエストは進行した。
その結果、ベールは困惑することになるのだが……。
「あの黒い蛇が強くなるって事かな?」
リルを助ける事が出来た魔法。
それを思い出した彼女は取る行動など決まっていた。
「うん!」
一人意気込むとベールはクエストの受諾をし――それを確認したかのようにNPCは話始める。
「面白いお嬢さんだ、まさかその杖を操れるとはね……」
彼は疲れたように笑うと部屋の中へとベールを誘う。
「さ、立ち話をするのもなんだから入ってくれるかい?」
優しい声だった。
まるで生きているようだとも思える彼の行動にはびっくりしたが、ベールは頷くと家の中へと入っていく。
そこには多くの本があり、それらがほとんど乱雑に置かれている。
所々に埃が積もっており、蜘蛛の巣も張っていた。
「……うわぁ」
思わず、嫌だなぁ……などと思ってしまったが、すぐに口を覆うようにすると――。
「さて、ニブルヘイムだったね……」
「……は、はい」
彼はソファーに座るように促す。
プレイヤーが座る場所だと言ってもしっかりと汚いそこに座るのは躊躇してしまったベールだが、どうやら座らないと話は進まないらしい。
意を決した彼女は埃を立てないように座るとケルハイトは部屋の中を歩き回る。
「えっと……確かここに……」
どうやら本を探しているようだ。
積み重なった本を乱雑に扱い、一冊の埃まみれの本を手に取った彼はふぅっと息で払おうとし、ゲホゲホと咳き込み始めた。
その行動一つ一つが生き生きとしており――。
「これが、ゲーム?」
まるで現実ではないか? と疑問に思うほどだった。
「はぁ……す、すまないね研究をしているとどうも掃除を忘れてしまう……」
「そ、そうですか」
ベールの前へと座った彼は埃なんて気にしないのだろう。
ドカリと座り、辺りには埃が舞って――二人して咳き込んでしまう。
「ぅぅ……」
「あははは、すまない」
悪気はないようだ。
そもそも以前にあった村長よりはマシ……だろうと思ったベールはじっと彼の持つ本を見つめていた。
「さて、それについての話を始めよう」
「は、はい!」
ベールの返答を待ってくれたケルハイトは微笑みながら頷き本をベールに見やすいように置くとページをめくっていく……。
最初に目にしたのはベールが持っているその杖そっくりの絵だった。
「これが君の杖、ニブルヘイムで間違いないね」
「そう、です……」
めったにやらないこういったゲームでベールはわくわくしていた。
自分の行動がゲームの中で現実となり、知らないことに繋がっていく……。
そして、その一つ一つがまるで本当に冒険をしているように感じられたのだ。
そう感じられるのもリルと一緒にやれると分かったからだろうか?
……一緒に居て楽しい。
ベールの中でもその言葉は確かに根付いていたのだった。




