3話 出会い
暫く狩りを続けていた彼女だったが、流石に疲れてきたのだろう。
ん~、という声と共に伸びをすると、そろそろ町へと戻ろうと考えた。
そんな時だ。
「た、助けてぇぇぇ!?」
聞こえてきたのは少女の悲鳴だ。
何かイベントやクエストでも始まったのだろうか?
そう思い調べてみるが、何もない。
だとすると初心者がここに来たのだろうか?
それは十分あり得るだろう。
「まぁ……近いし」
歩いて着ける距離だ迷い込んでも仕方がない。
そう割り切ったのだが……。
「……ほっとけないか」
”お兄ちゃん”ならきっとそうする。
彼女はそう思い、声の聞こえた方へと走る。
ここにいるのはゴブリンだ。
声の感じから聞こえたのは通常会話だろう。
なら近いはず……。
下手に強力な魔物は出ないと判断したのだが……。
「た、助けて!!」
そこには助けを求める初心者らしき少女。
そして、その奥からは――。
「な、なんな……」
ゴブリンに見えるが、それよりも大きな魔物だ。
慌てて確認すると――。
ホブゴブリンとだけ名前が表示された。
その手には彼女のパーティーだろうか? それとも別の人か……。
掴まれた人がおり、一瞬でその姿は粒子となって消えていく。
HPが0になり街に戻ったのだろう。
「助けて! いきなり湧いて出てきたんです」
「い、いや、助けてって言われても……」
私も初心者だよ! と言いたかったが、彼女はがたがたと震えている。
もしかしたらこういったゲームが初めてなのかもしれない。
彼女はため息をつくと――。
「ああ! もう!!」
そう言うとナイフを鞘から滑らせる。
それと同時にステータスへと目を向け先ほど手にいれたステータスを割り当てた。
レベルは8、新たに得られたポイントは14だ……。
ステータスが攻撃力になるのは÷3された値だから…………。
今現在、このゲーム内で本気で走ったことはない。
しかし普段の移動力から考え、それなりの速度が出るだろう。
だが、接近して万が一掴まれたら終了だ。
そう判断しDEXに12振り分け、残りの2をAGIに振り分けた。
「これで21……スキル――」
「き、来てます、来てますよ!?」
そんなことは分かってる!
そう心の中で叫びながら今度はスキルを確認する。
「……え? 弓ほぼ使えないじゃん!」
そこにあったのは弓や短剣、そして罠のスキルだ……。
だが、初心者でまだLv8の彼女に有用なスキルはほぼ無いと言えた。
初期の短剣スキルである連撃、これは狩りの途中に1だけ取ったが単純に一発当たりの火力は下がるものの攻撃が二回出来る使い勝手がいいスキルではあった。
弓にはパワーショット……はっきり言って倍率が高くない。
その派生技はどうだか分からないが……現状はMPを使うだけで役に立たないと言って良いだろう。
だが、たった一つだけ使えなさそうではあったが、この状況で使えるのでは? と咄嗟に思いついたスキルがあった。
「ホッピングトラップ……高速設置これを取って……」
ホッピングトラップとは罠を踏んだ対象を強制的に移動させるスキルだ。
しかも任意の方向にというものだった……だが、これは対象がちゃんと踏んでくれないと効果がない。
そう、踏まなければ発動はしないのだ。
高速設置に関しては読んで字のごとく、習得には他のスキルが1ポイントの所5も使ってしまうが、罠消費を2つ増やすことによって即座に設置できるスキルだ。
何故彼女がそれを使えると判断したのか? それは単純だった。
「罠を踏む対象については説明がない……」
弓へと装備を切り替えた彼女はホブゴブリンへと向かい走り出す。
そして、その太い腕が彼女を捉える瞬間――。
「高速設置!!」
新たに得たスキルを使うと自分自身で罠を踏み抜いた。
するとグンッと体を持って行かれる感覚と共にゴブリンが遠のいていく……。
いや、彼女自身が動いているのだ。
「狙い通り!! これなら避けれる!」
先ほどの腕の動きからしても恐らくは数段格上だろう。
まともに叩けば負けるのは必須だ。
だが、初心者を置いて逃げる気はなかった彼女は弓を構え――弦を引き、魔物へと矢を放つ。
「外した……けど……」
最初からうまくいくことはない。
それは理解していた。
「当たらないなら……」
攻撃をしたことでヘイトは完全に冬乃の方に向かっているらしいホブゴブリンは咆哮を上げ近づいてくる。
それに臆することなく、彼女はゆっくりと深呼吸をすると……。
「高速設置……」
罠を踏み抜き上へと移動をする。
更に――。
「高速設置!! 高速設置!!」
落ちる前に自信の足元に罠を作り出し空へと舞った彼女は弓を真下へと構え――。
「当たらないなら――当たるまで撃ち続ける!!」
持っている残りの矢49本をすべて真下へと放つ、必然的に頭を狙えたからだろう思ったよりもHPを削る事が出来たみたいだ。
しかし、魔物のHPはまだ1割残っていた……。
だが、まだあきらめる気なんてなかった。
「高速設置っ!!」
瞬時に弓から短剣へと装備を変えた彼女は意を決したように叫ぶ。
しかし、空中で生み出した罠より彼女が落ちる速度の方が早かったのだ。
これでは上に逃げることはできないだろう……いや、そんな必要はなかった。
それこそが彼女の狙いだった。
罠が自身の足の近くに来ることを予想し体を丸めていた彼女はそれを思いっきり伸ばし罠を踏む。
すると当然彼女が落ちる速度が速まり――。
堕ちてくるときを狙っていたホブゴブリンの腕をかすめ、脳天にナイフを突き立てるのだった。
「嘘!?」
だが、まだ魔物は動いていた……。
HPのバーはミリで残っているようだ……彼女は捕まれ地面へとたたきつけられてしまう。
それと同時にHPが6まで減ってしまった。
「ぅぅ……」
タンスに小指をぶつけたような痛みを感じつつ、彼女は身を起こそうとする。
しかし、レベル差の影響で相手の方が早いのだ……。
「高速……設置!!」
これで18個目……最後の高速設置を使い自身のわきへと罠を作り出した彼女は左手で思いっきり罠を殴る。
すると罠を踏み抜いたと判断されたのだろう……奇妙な光景だが彼女は寝転がったまま真っ直ぐにホブゴブリンへと向かって行き――。
「連撃!」
足の間を抜けると同時にナイフを振り、最後のダメージを与えたのだった。




